2023年より成形品質向上に関しての取り組みについて、紹介を行わせていただいております。
初回で、取り組み全般の概要をご紹介。2回目から4回目は、これまで取り組みを行ってきたなかで、広くお役に立てそうなピンポイント情報を取り上げ、5回目は少し趣向を変え、「成形品質クイック診断(樹脂)」の数年間にわたる評価結果蓄積から業界における、成形品質作りこみの取組みの進み具合をお伝えしました。
※過去の紹介ブログについては巻末のリンクを参照
今回のテーマは、成形業界でのAI取り組みに関しての状況をお伝えしてみようと思います。
弊社では数年前からAI活用に関する検討を開始しており、特に成形分野における適用可能性について議論を進めてきました。どのような領域でAIを活用できるのか、また、どこに適用することで効果が得られるのかを明らかにすることを目的として活動を展開しています。
IoTやビッグデータ分析が注目されていた時代から、私たちは上流工程でのデータ分析活用に着目してきました。取得したデータをより効果的に活かすためには、エンジニアリングチェーン全体での活用技術としてAIを組み込むことが重要であると考え、仮説を立てながら仕組みの構築を進めてきました。
データ収集に関しては、量産工程での収集からが多いのではないかと考えます。活用もその収集元を起点に考えるケースが多いかと思います。稼働状況の監視、良否判定、不具合対応など、量産業務に関連する領域でのAI活用がまずは進めやすいと考えられます。
しかしながら、製品の多くの状態は生産準備段階で既に確定してしまっているため、成形分野で本質的な効果を得ようとする場合には、より上流での対応、すなわち源流での取り組みが重要であるという認識は、多くの方が共有されているのではないかと推察します。
可能であれば、製品図面が確定する前の段階から手を打ち、問題の発生を未然に防ぎ、安定した量産体制を構築できるような生産準備を進めることが理想です。そのような取り組みによって、突発的な対応に追われることも減り、より効率的な業務運営が可能になると認識しています。
昨年度から各社の取組状況をヒアリングしたり、これまでに構築されている仕組みを整理したりしてきました。
まずは、弊社内における成形関連業務の仕組みを整理するところから始めました。成形性評価、金型設計、金型部品加工、測定作業といった一連の工程に関して、必要な仕組みが概ね整っていることを改めて認識しました。
これらの工程において、論理的に業務を進めるための仕組みが一通り揃っていると自己評価しており、今後はこれらの仕組みをさらに有効活用し、AIやデジタル技術との連携を図っていくことが重要だと考えています。
弊社内で構築されている成形分野に関する仕組みとして、以下のような取り組みが挙げられます。
これらの仕組みにより、生産準備から量産工程への情報フィードバックが可能となり、横断的な連携が進みつつある状況にあると認識しています。今後は、これらの仕組みをさらに高度化し、AIやデータ活用による最適化を目指していくことが重要です。
昨年度後半から本年度前半にかけて、弊社のお客様である社外企業の状況についてヒアリングする機会を得ることができました。
各社とも、現行の業務プロセスや仕組みに対して課題や問題意識を持っている一方で、AI活用については経営層からのテーマとして提示されている状況にあることが確認されました。しかしながら、実際にAI活用に着手している企業は少なく、未着手のケースが大半を占めていました。
多くの企業では、「AIを活用すべき」という方針は上層部から示されているものの、「具体的にどこから着手すればよいのか分からない」といった悩みを抱えている様子が見受けられました。こうした状況から、AI導入に向けた初期支援や、導入ステップの明確化が求められていると認識しています。
ご指摘の通り、AI活用を進めるにあたって「何をテーマにするか」は多くの企業が悩むポイントです。以下に、AI導入の着想点として考えられるテーマをいくつか整理してみました。
成形分野での活用を考えると、ベテラン社員の引退が差し迫っている企業も多く、これまで紙ベースで管理されてきた生産準備業務の情報が、十分にデジタル化されていない状況が多く見受けられます。現在、多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)活動が進められている中、これを機に知見のデジタル化を推進し、判断ノウハウの可視化を図ることが重要です。
その一環として、ある入力情報(INPUT)をもとに合否判定を行うAIモデルを構築することは非常に有用です。このような仕組みは、ベテラン技術者の経験や知見を形式知として蓄積・活用する受け皿となり、社内に眠る貴重な情報資産を次世代に継承する手段にもなります。
成形分野での活用を考慮すると、これまで時間を要していたCAEによる評価技術を、画像AIを用いることで迅速に置き換えることが可能になります。たとえば、サロゲートモデルを活用して結果を算出する仕組みにすることで、従来は1日以上かかっていた評価が、数秒で完了するようになります。
このような仕組みを構築するには、過去に蓄積されたデータの活用が不可欠です。特に、OKデータだけでなくNGデータも含めることで、より精度の高いモデル構築が可能になります。また、ベテラン技術者の知見を反映させる受け皿としても機能し、社内に蓄積されたノウハウを有効活用することにもつながります。
成形分野での活用を視野に入れると、学習データに対してOK/NGの判定を加えることで、判断可能な仕組みを構築することが可能です。たとえメカニズムが不明瞭であっても、結果として「OKになる」「NGになる」といった傾向が見られる場合には、評価モデルとして成立させることができます。
このように、実績情報をもとに結果論的なアプローチで評価モデルを構築することも可能であり、メカニズムが後から明らかになった際には、モデルをさらに高度化していくことができます。
したがって、現時点で完全な理解が得られていない場合でも、評価モデルの構築に着手する価値は十分にあると考えています。
成形分野においては、AI活用に向けた基盤が一定程度整っていることを確認しました。3Dデータを活用した設計・生産準備・検査工程の連携など、論理的な業務プロセスが構築されており、今後のAI導入に向けた土台となると考えられます。帳票ベースの業務に関しては、DX(デジタルトランスフォーメーション)活動の波にのり、再利用性の高いデジタル環境へと早期に移行を進めていくことが肝要と考えられます。
いっぽう、AI活用が経営層からのテーマとして掲げられているものの、具体的な着手には至っていないケースが多く見受けられました。AI導入にあたっては、「何をテーマにすべきか」という点で悩まれている企業が多く、初期段階での支援や着想の提供が求められています。
今後は、社内外の知見を活かしながら、AI活用のテーマ設定と導入ステップの明確化を進め、成形分野における業務の高度化と安定した量産体制の構築に貢献していくことが期待されます。
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