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MBSEの実践:SysMLはMUSTか、それともOPTIONか?

MBSE(Model Based Systems Engineering)の実践において、最初に考えるのがモデリング言語SysML(Systems Modeling Language)の攻略ではないでしょうか。そして挫折するのも同じくSysML...

そのような経験をされた方も多いと聞きます。

はたして、MBSEを実践する上でSysMLは必須なのか、それとも選択肢の一つなのか、ここではそのような疑問について考えてみたいと思います。

※MBSEの詳細についてはこちらをご覧ください。

MBSEとSysML、それぞれの役割と目的

MBSEは、システムズエンジニアリングプロセスをモデルベースで実施する方法論です。これにより、設計プロセスを視覚的に表現し、異なる視点からシステムを捉えることができます。MBSEは、システムズエンジニアリングの考え方をベースにしており、宇宙・航空分野を中心に発展してきました。MBSEの主なメリットは、誰が見ても同じ解釈となる設計書を作成できることです。

要求を段階的に具体化・詳細化し、計画的なすり合わせを実現する開発プロセス

SysMLは、モデリング言語であり、MBSEにおいてモデルを構築するためのツールとして使われます。SysMLは、システムの要件、要求、性能指標などを一つのデジタルデータとして管理し、データ間の関係性を定義することで、デジタルスレッドを成立させる役割を果たします。

※SysMLの詳細についてはこちらをご覧ください。

SysMLと9つのダイアグラム

簡潔に言えば、MBSEはプロセスの方法論であり、SysMLはそのモデリング言語です。つまり、MBSEの実践において、SysMLは必ずしも必須というわけではないと言えます。

MBSEの実践におけるSysMLの位置づけ

では、SysMLが必須・選択肢になるそれぞれのシチュエーションとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

SysMLが必須のシチュエーション

  1. 複雑なシステムの設計
  2. 標準規格への対応
  3. 異なる専門分野間のコミュニケーション
  4. 要求と検証のトレーサビリティ
  5. 新しい技術課題・リスク把握
  1. 複雑なシステムの設計

    複雑性が高いシステムやサブシステムが相互に関連する場合、システムの構造や振る舞い、要件などを視覚的に表現することで理解がしやすくなる。

  2. 標準規格への対応

    特定の標準規格の要件を満たすために利用される。自動車業界の機能安全規格ISO26262等。

  3. 異なる専門分野間のコミュニケーション

    ハードウェアとソフトウェア等、専門分野の異なるエンジニアのコミュニケーション手段として利用される。

  4. 要求と検証のトレーサビリティ

    SysMLはシステムの要求や検証の概念をモデルとして取り込むことができるため、それぞれを別々の文章で管理するのではなく、1つのモデルで管理することができる。

  5. 新しい技術課題・リスク把握

    新しい要求への対応や新技術の採用においては、その技術的な課題やリスクを早期に発見することが求められている。SysMLは複雑なシステム・相互作用の可視化と把握、異なる専門分野のコミュニケーションを促進することで、これを実現する。

SysMLが選択肢となるシチュエーション

  1. 小規模や単純なシステムの設計
  2. 既存のプロセスやツールの存在
  3. 専門知識や教育の欠如
  4. 時間や予算の制約
  1. 小規模や単純なシステムの設計

    規模が小さく、構造が単純なシステムの場合、SysMLの詳細なモデリング機能は必要ないことがある。逆に採用することで手間がかかりすぎるためデメリット方が大きくなる。

  2. 既存のプロセスやツールの存在

    長年熟成され、確立した手法がある場合、SysMLは選択肢の一つとなる。

  3. 専門知識や教育の欠如

    チームメンバーがSysMLを効果的に使用するための十分な教育を受けていない、もしくはその専門的な知識を持っていない場合、チームの既存のスキルセットに合ったツールを使用する方が望ましい。

  4. 時間や予算の制約

    SysMLの導入や活用には多くの時間とコストがかかります。限られた時間・コストの中では採用を後回しもしくは別のツールを採用することになる。

SysMLは強力なモデリング言語ですが、すべてのプロジェクトや状況に最適なわけではありません。製品やプロジェクトのニーズや状況に応じて、SysMLの使用は選択肢の一つとなります。重要なのは、プロジェクトの目標を達成するために最も効果的なツールや方法を選択することです。

SysMLを補完する『技術ばらし』という選択肢

技術ばらしとは、製品に求められる要件や機能を実現するための業務課題と実現要素との関係を明らかにする手法です。製品の成り立ち全体を整理し、視覚的に表現することで、システムの設計や開発において必要な情報を整理します。SysMLと対比されてしまうことがありますが、目的や適用範囲など大きな違いがあります。

※技術ばらしの詳細についてはこちらをご覧ください。

  SysML 技術ばらし
目的 システムの仕様、分析、設計、検証、評価をモデルベースで行う 製品開発における技術の成り立ちを明らかにし、技術シナリオを検討する
適用範囲 システム工学全般にわたる広範囲なアプリケーションに使用され、ハードウェアやソフトウェアの両方を含むシステムに最適 製品に求められる要件や機能を実現するための業務課題と実現する要素との関係を整理・見える化に特化
表現方法 9種類のダイアグラムを使用してシステムの様々な側面を表現し、要求、構造、振る舞い、パラメトリックなどの情報を統合 製品開発のプロセスを「技術」「業務」「判断」の3つの視点から見える化
標準化 OMG(Object Management Group)によって標準化され、国際的に認知されている 特定の企業やプロジェクトの内部プロセスに合わせてカスタマイズされることが多い
柔軟性 異なる業界やプロジェクト間での共通言語であるため、厳格なルールを持つ 特定の製品やプロジェクトに対して柔軟にテーラリングできる

技術ばらしは製品の詳細な理解とプロセスの可視化を行うことで、システム設計の前段階で重要な役割を果たし、SysMLはシステム設計の具体的なモデリングと標準化されたコミュニケーションに活用されます。つまり、SysMLが選択肢となるシチュエーションにおいて、技術ばらしはSysMLを補完し、MBSEの適用を促進することができると考えられます。

個人的な見解を含みますが、例えば次のようなアプローチを考えてみるのはいかがでしょうか。

  1. 要件定義とモデリングとを分ける
    技術ばらしを用いて、製品に求められる要件や機能を明確にし、その後、SysMLのダイアグラムを用いてこれらの要件をモデル化(システムの構造や振る舞いを視覚的に表現)する。SysMLの適用を最低限必要な範囲とすることで、導入の障壁を下げつつも、異なる技術要素がどのように連携して機能するかを示すことができる。
  2. 整合性の答え合わせに使用する
    技術ばらしで得られた業務マスタとSysMLモデルを照らし合わせ、一貫性が保たれているかを確認する。SysMLの知識不足から発生する誤解を防ぎ、効率的にSysMLの導入を促進することができる。

MBSEの将来とモデリング言語の役割

製造業をはじめとする多くの業界でデジタル技術を活用した業務効率化や品質向上のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。当然、この活動の中でMBSEは製品ライフサイクルの最上流から設計開発を効率化・品質向上の手法として注目されおり、適用が進んでいます。特に複数のシステムが連携するようなSoS(System of System)が増えている状況下では、個々の頭の中だけでは全体像の理解や変更の影響把握が困難なため、積極的にMBSEを活用することが有効と言えます。また、セマンティック技術の進化により作成したシステムモデル(=情報構造体)の利活用が進み、システムズエンジニアリングに必要な新たな情報の抽出も可能になっています。

これらのトレンドは、MBSEが今後もシステム設計と開発の分野で重要な役割を果たし続けることを示しており、モデリング言語にはより重要な役割を果たし続けるための進化や拡張可能性が求められています。

しかしながらシチュエーションによってはモデリング言語が導入障壁になることもありますので、その適用に対しては十分な検討と準備が重要となります。電通総研は単に学問としてシステムズエンジニアリングを推進するのではなく、継続的に使われ効果を上げるサステナブルなMBSEを推進します。ご興味のある方は下記リンクよりお問い合わせください。


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