昨今の製品の複雑化に伴い設計・開発の規模は増大の一途を辿っており、MBSE(Model Based Systems Engineering)の適用が必須と言われています。弊社では以前よりMBSE関連ソリューションを提供してきておりましたが、お客様の価値向上を目指し、過去の導入事例を分析し、何度も議論を重ねた結果、「実践できるMBSE」として改めてソリューションをまとめました。
本ブログでは、そもそものMBSEという言葉の意味を振り返りながら、ISIDが提案する「実践できるMBSE」についてご紹介いたします。また、11月末に予定しているセミナーについてご案内いたします。
最初にMBSEという言葉の意味を振り返ってみたいと思います。
まずMBSEのSE:Systems Engineeringについてです。INCOSEではSEを「システムを成功裏に実現するための複数の分野にまたがるアプローチ、及び、手段」と定義しています。
次にMBですが、このMBはModel Based、つまり「モデルに基づいた」という意味となり、従ってSEとMBを組み合わせたMBSEは、「モデルに基づいた(活用した)SE」という意味となります。SEにモデルを適用する狙いの一つは、文書だけでは理解しにくいことを、図示により理解を容易にすることです。このような元々の意味に立ち返ると、MBSEは複雑な情報をシンプルに捉えることで理解を即すものであり、それがMBSEの目指すべき姿と考えられます。
また、ここでのポイントは、MBSEは「手段」であるということです。多くのお客様から「MBSEに取り組みたい」との声が上がっておりますが、本来は「〇〇という課題があるので、MBSEという手段で解決したい」とあるべきで、「MBSEで解決したい課題は何か?」を常に忘れずに持ち続けることが非常に重要です。ISIDはこの原点とも呼べる「課題を解決する」を忘れず持ち続けることこそが重要であると考えています。
MBSEでは、モデル化されたシステム=システムモデルを扱います。iQUAVISやCATIA Magicのようなツールを使用することで様々な情報を構造化してシステムモデルを構築し、ダイアグラムや表、ツリー図で必要な情報を抽出して表現することができますが、ここでも重要になるのは課題を解決するために扱う情報の種類や粒度、分類、抽出方法などを最初に決めることです。
MBSEで扱う「システム」は、「定義された目的を成し遂げるための相互に作用する要素(element)を組み合わせたもの」と定義され、ここでの要素にはハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、人、情報、技術、設備、サービスなど様々な要素が含まれます。一般的にシステムには開発対象の部品や製品だけが含まれるケースが多いですが、実際にはシステムの定義はこのように広範囲に及ぶため、部品や製品に加え、設計・開発担当者や組織、開発に使用する設備、開発プロジェクトまで含めて「システム」と考え、MBSEで扱う対象と捉えることになります。
システムで扱う要素が増えてくると、必然的に扱う問題も複雑になります。問題の解決に向けて様々な関係者と情報を共有し、認識を合わせようとしても膨大な情報を詰め込んだ大規模システムモデルでは使い勝手悪く、作成したものの使いづらい・使われない、MBSEも一過性の活動で終わってしまった経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような事態を陥らないためには、いきなり全体をくまなく捉えようとせず、まずいくつかの比較的単純な課題に着目して進めることをお勧めします。取り扱う情報を課題から紐づく範囲に絞ることでアプローチをシンプルにし、シンプルなシステムモデルを構築します。そしてシンプルなシステムモデルを積み重ねることで段階的に全体を構築していきます。シンプルに考え、システムモデルを構築する度にMBSEの適用効果を感じながら、複雑な問題に対応することを目指していきます。
一方で、システムモデルの規模を拡大していくと、扱う情報の量が増え、情報同士の関係も複雑化し、iQUAVISやCATIA Magicのようなツールの力を借りても理解できる人が限られてくることがあります。難しいことを難しく伝えることは容易ですが、本来の目的は難しいことをいかに簡単に伝えるかです。そこで必要になってくるのが、運用に載せるための仕組み化です。比較的単純な課題から取り組みを始め、課題に即したシンプルなシステムモデルを構築し、段階的にモデルを積み上げ、仕組み化を通じて運用に載せることで、はじめてMBSEは効果を発揮します。
このようにMBSEを真に実践していくためには使うための技術・考え方、仕組み化に加えて様々な先進事例をいち早く取り入れ、日々改善していくことが重要です。まとめると必要なファクターは次の3つとなります。
ISIDは最新の情報に基づいたコンサルティングサービス、システムモデルの作成、情報基盤の構築といった幅広い支援をワンストップで提供します。
技術の見える化、業務の見える化、判断の見える化を軸にした、開発の見える化を実現するITツールです。MBSEを実施する際に必要となるシステムモデリングから、品質・リスク分析、プロジェクト管理を1つのツールでカバーします。また、APIを備えており、既存ツールや他システムとの連携も可能とします。
システムズエンジニアリングにおける世界共通言語「SysML」に準拠したモデルを作成することができるモデリングツールです。SysMLの標準的なダイアグラムを用いたシステム情報の構造化が行えます。システム情報の効率的な抽出や関係性の可視化により、検証。意思決定の支援が可能です。
さて、ISID では2023年11月28日(火)にMBSEセミナーを開催予定です。このセミナーでは「実践できるMBSE」を多くの企業が行っている流用開発・差分開発に着目したシナリオとしてご紹介いたします。開発プロセスによって異なる課題を、コンサルティング支援やシステムモデル作成、情報基盤構築など、ISID の扱う様々なソリューションを組み合わせてどのように解決するのか、「欧州企業の最新事例」と共にご確認いただけると幸いです。ぜひ参加ください。
一括企画開発 | 新規機能追加開発 | 流用開発 | |
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要求項目・テスト項目 | 従来から変更となることがある | 新規開発要素が含まれるため、従来から変更となることがある | 従来から大きく変わらないことが多い(目標値の更新はある) |
プロジェクト(PJ)規模 | 比較的小規模なケースが多いが、PJ数が多く、バリアント管理の必要もあり、開発関係者は百名以上に膨らむケースもある | 比較的大きく、開発関係者は数百名規模になることが多い | PJあたりの開発メンバは、多くて数十人程度 |
その他・特徴 | 過去資産をバリアントとして管理してプロダクトライン開発を適用している | 各種規格対応、安全論証が求められるケースも多い | 過去資産を活用した(マイナーチェンジの)流用開発が主体 |
AIやIoTの例を挙げるまでもなく、昨今では開発現場のみならず、様々なところに様々な情報やデータが溢れています。開発現場で扱われている情報がどこから来ているのか、どこに格納されているのか、どのように更新されているのか、これらを全て網羅的に整備し、理解するには膨大な労力とコストが必要です。課題解決に必要な範囲の情報を必要な粒度で整理してシンプルなシステムモデルを構築し、情報を必要とする人にわかりやすい形で届ける。こうしたMBSEをISID は今後も目指していきたいと思います。