ブログ

航空宇宙APQP-PPAP実践ツールとしてのiQUAVIS活用

はじめに

航空宇宙産業は、極めて高い品質と信頼性が求められる分野です。品質の確保は、製品の安全性と性能に直結するため、厳格な品質管理プロセスが必要とされます。その中で重要な役割を果たしているのが、APQP(先行製品品質計画、Advanced Product Quality Planning)とPPAP(生産部品承認プロセス、Production Part Approval Process)です。
この記事では、これらのプロセスを簡単に述べ、現場での課題やその解決案の一つとしてiQUAVISの活用例をご説明します。(本ブログ記事の活用例は、2024国際航空宇宙展(2024年10月16日~18日、東京ビックサイト)にて展示予定です。)

APQP(Advanced Product Quality Planning)

APQPの背景と目的

APQPは、製品の品質を計画的に確保するためのフレームワークです。主に自動車産業で発展しましたが、航空宇宙産業でも広く採用されています。APQPの目的は、製品開発の初期段階から品質についての観点を組み込むことで、製品の不具合を未然に防ぐことです。

APQPの5つのフェーズと成果物(AS13100/RM13145規格 ※1)

AS13100のリファレンスマニュアル(RM)の一つであるRM13145にてAPQPのフェーズと成果物が定義されております。

APQPを推進する手順は、5つのフェーズで構成されています。それぞれのフェーズを、後述する5つのイベントの間で行い、求められる活動を行ったり、成果物を作成したりします。
そうすることで、製品の品質向上、コストの削減、開発期間の短縮ができ、顧客満足度向上につながります。

  1. 計画と定義(Planning)
    顧客の要求事項を明確にし、プロジェクトの範囲と目標を設定します。
    【成果物】プロジェクト計画書、大まかな製品構成
  2. 製品設計と開発(Product Design and Development)
    製品の設計を行い、設計の妥当性を確認します。
    【成果物】詳細設計図面、設計リスク分析結果、フィージビリティ評価結果
  3. プロセス設計と開発(Process Design and Development)
    製品を製造するためのプロセスを設計し、必要な設備やツールを準備します。
    【成果物】製造工程で使われる文書類(プロセスフロー図、品質管理計画書等)、工程リスク分析結果
  4. 製品およびプロセスの検証(Product and Process Validation)
    試作を行い、製品とプロセスの適合性を確認します。
    【成果物】初度生産品、工程/生産能力測定結果
  5. 継続生産、使用・引き渡し後のサービス(On-going Production, Use and Post-delivery Service)
    製品の量産開始後も継続的にフィードバックを収集し、継続的改善を行います。
    【成果物】プロジェクト評価結果、Lesson Learned Report等

APQPのフェーズとイベント

図1において定義されているフェーズ(1~5)は、各イベント(KO~PL)間の関係を示しています。

図1 APQPのフェーズ及びイベント

イベントの目的の定義は以下となります。

  • Kick Off(KO)
    技術・品質・コストの目標、および全体日程を含むプロジェクトのスコープを定義。
  • End of Concept(PDR、Preliminary Design Review)
    予備設計が許容可能なリスクですべてのシステム要件を満たし、コストとスケジュールの制約内で実行されていることを実証した上で、詳細設計に進むための基礎を確立。
  • Design Release(CDR、Critical Design Review)
    設計の成熟度が、本格的な製造、組み立て、統合、テストの進行をサポートするのに適切であることを証明。
  • IPA(Initial Product Approval)
    連続生産環境で生産された製品が、定義された設計意図を満たしていることを確認。
  • PL(Product Launch)
    生産開始が、制御された能力のある本格的な生産を実証することを確認。

PPAP(Production Part Approval Process)

PPAPの背景と目的

PPAPは、製品の量産開始前(APQPフェーズ4完了後)に製品と製造プロセスが顧客の要求を満たしていることを、顧客に客観的に証明し、顧客から承認を得るためのプロセスです。これにより、量産開始後の不具合発生リスクを最小限に抑えることができます。

PPAPの要素(AS13100/RM13004規格 ※2)

AS13100のリファレンスマニュアル(RM)の一つであるRM13004ではPPAPのフォーマットが掲載されております。ここでは、そのPPAPフォーマットを紹介いたします。

PPAPは、以下の要素(エレメント)等で構成されています。APQPフェーズ1~4で要求される成果物です。
PPAPエレメントの例は以下です。

  • 設計記録(図面、スペック等)
  • 設計リスク分析(DFMEA)
  • プロセスフロー図 ※図2
  • 工程リスク分析(PFMEA) ※図3
  • 管理計画(CP) ※図4
  • 測定システム分析(MSA)
  • 初期プロセス能力測定
  • FAIR
  • 顧客固有PPAP要求事項

図2 プロセスフロー図(Process Flow Diagram)

図3 工程リスク分析(P-FMEA)

図4 管理計画(Control Plan)

APQP-PPAP適用における課題

開発現場では、APQPの開発プロセスやPPAPエレメントをExcel等のツールで作成することが多く、Excelの管理工数、各PPAPエレメントの作業・変更工数が膨大に発生しています。このような現状に対し、ITシステムを利用した、品質管理の工数削減が強く求められます。具体的には、計画(APQP)の共有・変更管理・進捗管理、データベースを活用したPPAPエレメントの作成、変更・更新情報の他PPAPエレメントへの転機・反映の自動化・効率化等です。

APQP-PPAP実践ツールとしてiQUAVIS活用

iQUAVISの紹介

iQUAVISは電通総研が開発した「開発の見える化」ツールです。ツリーやブロック図、ワークシート、日程表の機能を活用し、製造業界向けに「プロジェクト管理」、「システム設計」ツールとして開発を見える化し、自動車業界・電気機械・重工業のメーカ様に多く採用されています。

iQUAVISの3つの見える化

APQP実践ツールとしてのiQUAVIS活用

ここでは、AS13100 RM13145(※1)/RM13004(※2)、SCMH Section 7.2.3(※3)に掲載されているAPQP/PPAPフォーマットをiQUAVISで実装したイメージをご紹介いたします。

開発プロジェクトの日程について、APQPのフェーズ・イベントに合わせてタスク(※3)を定義し、各タスクに担当者をアサインして、担当者に進捗を入力してもらうことができます(図5)。各タスクには求められる成果物があり、その成果物をiQUAVISに格納して、リストとして管理することが可能(図6)です。リストには図6に表示されている情報以外にもユーザーが必要とする属性を付けて、タスクの種類を分類したり、リストに表示制御したりすることも可能です。

図5 APQP用のタスクやイベントを設定したiQUAVISの日程表画面

図6 APQP用のタスクの進捗・担当・成果物を入力・管理可能なTask List

iQUAVISはWindows上で動作するiQUAVIS Clientを提供して、サーバー - クライアント構成で共同作業することができますが、ユーザー様よりWebブラウザー対応のニーズが高く、クライアント機能中の一部を徐々にWebブラウザーでも機能するように開発を進めています。日程表やTask Listを出力する機能に関しては、最新バージョンで対応しておりますので(図7)、あわせてご参考ください。

タスクの担当者にアサインされた人にはメール通知機能でメールが届くため、タスク実施のヌケモレを防ぐことができます。また、完了日の前に進捗状況に合わせてアラート通知メールが送信され、個人のタスクを管理することが可能になります。開発プロジェクト全体の日程を見渡しながら、進捗や成果物を確認することができますので、開発プロジェクトの品質・納期管理に有効に活用頂けます。

図7 Webバージョン対応のiQUAVIS画面

PPAP実践ツールとしてのiQUAVIS活用

次に、iQUAVISのワークシート機能(上記Task Listと同じ機能)を活用してPPAPエレメント5種類(D-FMEA, Process Flow Diagram, 特性マトリクス, P-FMEA, Control Plan)作成に活用する方法を紹介します。以下は、iQUAVISで設定した各PPAPエレメントの画面となります。

図8 D-FMEA(Design Failure Mode and Effect Analysis)

図9 Process Flow Diagram

図10 特性マトリクス(Characteristic Matrix)

図11 P-FMEA(Process Failure Mode and Effect Analysis)

図12 Control Plan

図9のProcess Flow Diagramは図2のプロセスフロー図、図11のP-FMEAは図3の工程リスク分析、図12のControl Planは図4の管理計画に対応するものです。

製品・部品を製作する際に、生産技術の担当者はプロセスフロー図(PFD, Process Flow Diagram)でプロセスを設計した後に、P-FMEAによるリスク低減を行い、工程で要求される製品・部品特性が確実に得られるように製品・工程特性の測定等の管理計画(CP, Control Plan)を立てます。最初から完璧なCPが立てられれば良いですが、実際はPFD -> P-FMEA -> CPで検討を進めながら、リスク低減による工程フローの変化や測定する特性が変わったりします。CPやP-FMEAからの変化をPFDに遡って反映することが普段行われることになりますが、数千行のExcelで作成されている各PPAPエレメントを確認して修正を行うことは神経を使う作業ですし、同じ工程名・順序になっているかを確認することはそれなりの負荷のかかる作業です。

iQUAVIS上でPPAPエレメントを作成する場合、各PPAPエレメント間で共通するデータについては、一箇所で修正を行うと、他のPPAPエレメントに即反映されます。この機能により、他エレメントへの変更を一々行う必要がなくなります。

図13は、PFDで「STEP02-03」や「PRODUCT KC K」を作成したら、P-FMEA、CPにも反映された状況を説明する図となります。CPに新しく作成されたデータについても、PFD、P-FMEAに自動的に作成されますし、変更された場合も即時反映されます。

図13 PFDで追加されたデータがP-FMEA、CPに自動で作成された結果

iQUAVISを活用してAPQP対応の開発プロジェクトの日程を作成・管理する場合、PPAP作成用iQUAVISプロジェクト(※iQUAVISのデータを取り扱う単位)にAPQPの日程を参照することができます。図14では、PPAPエレメント(P-FMEA)で作成されたRecommended Actionを日程表に表示させ、全体の開発日程を確認しながらCompletion Dateを設定できるように設定した例になります。

図14 P-FMEAで作成されたRecommended Actionデータが日程表に表示された画面

まとめ

以上のように、iQUAVISのプロジェクト管理機能、ワークシート機能は、航空宇宙APQP-PPAPを実務に適用する際に必要な管理機能や成果物(PPAPエレメント)作成にご活用頂けます。

本記事で説明した内容以外にも、様々なiQUAVISプロジェクトにユーザーの投入工数を入力して、プロジェクト単位、ユーザー単位で投入工数が確認できたり(工数管理)、FMEAの過去データから類似度順で提示してくれたり(AI検索)、本記事では紹介できていない便利機能で開発業務の効率化に役立てております。

2024国際航空宇宙展(2024年10月16日~18日、東京ビックサイト)に弊社のブースを展示して本記事の内容も展示しておりますので、ご参加頂き詳細をご確認ください。

【出典】

※1:出典 https://aesq.sae-itc.com/supplemental-materialのRM13145(Advanced Product Quality Planning(APQP) and Production Part Approval Process(PPAP))

※2:出典 https://aesq.sae-itc.com/supplemental-materialのRM13004(Defect Prevention Quality Tools - RM13004 Template and Examples(Excel))

※3:出典 SCMH Section 7.2.3


本記事は役に立ちましたか?コメント・問合せも承ります。


サイト内関連リンク