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エンジニアには「考えること」が求められている

はじめに

筆者は、メーカーで30年以上にわたって技術開発や製品開発に従事してきました。また、技術開発、製品開発と並行して、直近の10年余りは、開発プロセスに関わる各種手法の啓蒙推進やエンジニアの教育に取り組んできました。特に後者においては、技術に対する様々の観点や考え方の議論も行ってきました。「考え方」の議論においては、エンジニアが考えるためには何が必要なのか、どうすればエンジニアが、考えること、考え続けることができるのか、ということが中心的なテーマでした。

エンジニア(技術者)の仕事は、山登りに例えることができると思います。まず目的・目標を決めます。登る山を決めることと同じです。次に、どのようにしてその目的・目標を達成するかを、対象としているシステムや技術の状況を見て検討します。登ろうと決めた山の状況を見ながら、登る道や登り方をいろいろと考えることに相当します。そして、エンジニアが実際の検討を行うにあたっては、状況に応じて、さまざまの手法を用いて、技術開発や製品開発、問題解決等を行っていきます。山に登るときに、登ろうとする山に合った必要な装備を準備し、それを用いて登っていくことと同じです。

では、これで山に登れるか、山頂に行けるかというと、そうではありません。一歩ずつ歩いて行くこと、歩き続けることが必要です。歩き続けなければ、決して山頂に到達することはできません。 エンジニアも同じです。検討を続けなければ、目標を達成することはできません。検討を続けるということは、「考え続ける」、「とことん考える」ということを意味します。

「技術は目標を達成するための手段である」とすると、手段について考え続けるということになります。もう少し分けて言えば、手段になり得る「仮説」を考え、「仮説を検証する方法」を考え、「検証結果の意味」を考え、そうした考えることを繰り返し行い続けることで、手段としての技術を実用的なものにしていくということです。では、考え続けるために、とことん考えるために、何が必要でしょうか。  山登りで歩き続けるということは、ある方向にある速さで絶え間なく進むことです。方向と大きさがある「ベクトル」として表現できます。考え続けて目標に達するためには、考え続けるというベクトルの方向が適切であり、かつ、ある大きさを持っていることが必要です。方向を決めるための「技術に対する考え方・知見」と、大きさを維持するための「様々の手法に関する理解と活用スキル」の二つが必要だということです。

技術に対する考え方・知見

ひとつ目の、対象である技術をどのように理解するかという「考え方・知見」については、計画段階でも必要なことがらですが、検討途中でも、検討対象の状況を見て、何をどのようにすれば良いのかを認識し、検討方向を決めるために必要なものです。何をすれば良いかを考えるには、様々の観点から対象を見ることが求められます。そうした様々の観点の意味を理解し、自分のものにしておく、自分自身の知見にしておくことが大切だということです。「分けて、整理する」ということに対応します。

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手法に関する理解と活用スキル

ふたつ目の、考え続けることを支援する、様々の手法に関する理解と活用スキルに関してですが、適切な手法の助けを借りながら、一歩ずつ考えることを進めていくということです。手法は答えを出してはくれません。しかし、手法は、考え続けること、検討し続けることを助けてくれます。そして、「整理して、繋いだ」情報を基にすることで、様々の手法を有効に活用できます。自動車とのアナロジーで表現すれば、「技術に対する考え方・知見」が方向を制御するハンドルに相当し、「手法に関する理解と活用スキル」が、動かすための駆動部に相当します。「手法」の支援を受けつつ前進し続けながら、進行方向を「考え方や知見」によって適切に修正していくことで、確実に目的地に着くことができるということです。

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エンジニアの目指す姿

最初に示しました「目的・目標を決めること」が最も大切なことであることは言うまでもありません。考え続けるにしても、目的・目標が適切なものでなければ、無駄な行為ということになります。「目的・目標を決める」ということに関しては、どのようにすれば「善い目的」を決めることができるのかということを中心にお話をしたいと思います。

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本記事は、201910月から202112月に掲載された岡建樹が執筆したコラムを再編成したものです。