「QFD」は「Quality Function Deployment(品質機能展開)」の略です。最初に提案されてから50年近く経過しますが、開発や生産の現場でよく用いられている手法です。定義や意味するところは、現場や企業によって異なる場合がありますが、ここでは、次の定義とします。
「QFDとは、新製品開発にかかわる次元の異なる情報を展開整理し、二元表を利用しながら繋げていく手法である。」
玉川大学の永井一志教授が、書籍や講演で言われている定義です。この定義の中の、「次元の異なる情報」「展開整理」「二元表を利用しながら繋ぐ」について、説明を加えていきます。なお、「分けて、整理して、繋ぐ」ということとの関係では、「次元の異なる情報」が「分けて」、「展開整理」が「整理して」、そして、「二元表を利用しながら繋ぐ」が「繋ぐ」に対応することが分かると思います。
例えば自動車で言えば、「安全性、燃費、快適性」という品質を表す情報と、「車体、エンジン、足回り」というようなサブシステムを表す情報とは、並べて比較することができません。比較する意味がないということです。このような情報が「次元の異なる情報」です。商品開発における「次元の異なる情報」としては、図1に示すように、「顧客の要求品質」「商品の品質特性」「機能展開」「設計パラメータ(部品)」「原材料/製造工程」等があります。
図1 商品開発における次元の異なる情報
「展開」とは、情報を階層構造に整理することを意味します。機能を階層構造に整理し、それを機能展開と呼びますが、そのように情報を階層構造に整理することを「展開整理」と言います。機能に限らず、顧客の要求品質も、商品の品質特性も、ほとんどの情報は階層構造に整理することができます。情報の「構造化」と言われることもあります。また、別の表現として「ツリー」と言われることもあります。階層構造がツリー構造になっているためです。
各次元には、階層構造に展開整理された複数の情報があります。各次元の情報を繋ぐということは、複数の情報間を繋ぐことになります。複数の情報間を繋ぐ方法のひとつとして、複数の情報を縦軸と横軸にとった二元表があります。商品開発には、図1に示すように、「顧客の要求品質」「商品の品質特性」「機能展開」「設計パラメータ(部品)」「原材料/製造工程」等の次元の異なる情報があります。したがいまして、それぞれの情報を1つの軸として、図1の中で互いに関連している情報間を、それぞれの情報を縦軸、横軸として、二元表で繋ぐことができます。それを示したのが図2です。
図2 二元表
5つの異なる次元の情報を、4つの二元表で繋いでいるのが分かると思います。双方向の矢印で、各二元表がどの情報間の関係を示しているのかを表しています。また、二元表の中のコラムには、縦軸と横軸の項目間で関係がある場合、その関係の強さに従って、◎、〇、△や、数字を入れることになります。一部の二元表に例として記号を入れてあります。図2によって、対象とする商品の全体像(顧客の要求から部品の作り方まで)を表現できていることが分かると思います。
製品のアーキテクチャには、「摺り合わせ型」と「モジュラー型」の2つの型があることはよく知られています。自動車やプリンタが前者の代表であり、パソコンシステムは後者になります。図3にそれぞれのシステムにおいて、縦軸に品質を横軸に技術をとって、二元表で表してみます。
図3 摺り合わせ型とモジュラー型の二元表
摺り合わせ型では、程度の差はありますが複数の技術が複数の品質に関わっており、モジュラー型では、ひとつの品質はひとつの技術で決まります。つまり、二元表で表現することによって、どのようなアーキテクチャの製品であるかが分かるということです。
モジュラー型のアーキテクチャの製品であれば、技術間相互の影響はありませんので、技術と技術を繋ぐインターフェースを適切に設定さえすれば、製品全体の品質を確保することができます。しかしながら、摺り合わせ型のアーキテクチャを持つ製品では、技術間の相互影響に考慮しつつ開発段階の検討を進めることが必要になります。開発の後半以降に摺り合わせによる問題が発生した場合、対応が複数の技術に関わりますので、なかなか品質問題を解決することができず、納期遅れに繋がることがあるからです。
また、摺り合わせ型の製品を二元表で表現した場合、その二元表によって、対象製品にどのような種類の課題があるかということを知ることもできます。そして、課題の種類を知ることで、課題に対応する進め方として適切な方法を選ぶことができるようになります。
図4 摺り合わせ型製品に発生する問題
二元表によって、次の3つの種類の技術問題を表現することができます。
機能δは、AとBという品質に関係しています。品質Aはδのレベルを上げると向上しますが、品質Bはδのレベルを下げることで向上します。つまり、機能δは、レベルを上げても下げても品質に問題が発生するという矛盾を抱えているということです。その矛盾問題を解決することが技術課題になり、様々な矛盾解決の手法を活用することになります。
品質Dに対して関係する機能はγだけです。品質Dの目標を達成するには機能γのレベルを変えることが必要ですが、機能γのみでは品質Dの目標を達成できない場合があります。品質Dに関係する他の機能が必要であるということです。機能が不足しているという問題と言えます。機能γを改善するか、他の機能を品質Dに関係させるか、品質Dに関係する新たな機能を創出することが必要になります。
品質Eは、機能α、γ、δに関係しています。その中で、機能αの影響が強く、それによって品質Eの目標を達成できない場合があります。機能αのレベルが過剰であるという機能過剰問題です。機能αを改善する(レベルを下げる)か、関係する他の機能γ、δで対応するということが必要です。
開発段階において技術問題が発生すると、それに対して解決策を検討します。その時に、新しいアイデアが必要になる場合が多くあります。新しいアイデアを創出するためのアイデア発想法はいろいろとありますが、課題の種類によって使うべきアイデア発想法は異なってきます。矛盾問題に適した発想法もありますし、機能不足問題に適した発想法もあるということです。ですから、技術問題の種類が分かることで、その問題に対して最も適切なアイデア発想法を用いて対応策のアイデアを検討することができます。その結果として、効率的、効果的に解決策アイデアを出すことができることになります。二元表を用いることで、摺り合わせ型技術において課題の種類を分類できることの効果です。
QFD、つまり二元表を用いることで、技術のアーキテクチャや課題の種類が明らかになり、それらに対応した適切な手法を選択することができます。情報を「分けて」「整理する」ことの効果です。そして、二元表で全体を見える化できていますので、全体を「繋いだ」時に、抜け漏れなく課題に対応した全体システムとすることができるということです。
参考文献:
進化型QFDによる技術情報の"使える化":岡建樹、奈良岡悟(日科技連出版社)2019年2月刊行
本記事は、2019年10月から2021年12月に掲載された岡建樹が執筆したコラムを再編成したものです。