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デジタルスレッドとデジタルツインの違い 事例とメリットをご紹介

序章

製造業の現場で「あの部品の設計変更は、いつ、誰が、なぜ決めたのか。図面とBOMをさかのぼっても追いきれない」と感じた経験はありませんか。設計から製造、保守までの情報が部門ごとにばらばらに管理されていると、品質トラブルが発生した際に原因究明へ何日もかかってしまうことがあります。たとえば自動車メーカーで市場不具合が発生した際、対象ロットの特定に1週間以上かかり、リコール対応が後手に回ったという話もあります。これは、製品ライフサイクル全体でのトレーサビリティが十分に確保されていないことが原因です。

このトレーサビリティを実現する仕組みとして近年注目されているのがデジタルスレッドです。よく似た言葉にデジタルツインがありますが、両者は役割が異なります。本記事ではデジタルスレッドとデジタルツインの違いを整理し、デジタルスレッドが製造業のMBSE、SPDM、BOPをつなぐ効果や、具体的な事例、導入時の解決策までをご紹介いたします。

デジタルスレッドとは? デジタルツインとの違いも解説

デジタルスレッドとは、製品の企画、設計、製造、保守、廃棄までのライフサイクル全体にまたがるデータを、一本の糸のようにつなげて参照できるようにする考え方やアーキテクチャのことです。スレッドという言葉が示す通り、各工程で生まれる設計データ、シミュレーション結果、製造実績、検査記録、保守履歴などを切れ目なく結びつけ、誰が、いつ、どの判断をしたのかをさかのぼれる状態をつくります。

一方、デジタルツインは現実の製品や設備、工場を仮想空間に再現し、リアルタイムデータと連動させて挙動を分析・予測する仕組みです。たとえば工場の生産ラインを3Dモデル化し、IoTセンサーから取得した稼働データと合わせてシミュレーションすることで、設備の故障予兆を検知する、といった使い方があります。

両者は混同されがちですが、役割を整理すると次のようになります。

【デジタルスレッドとデジタルツインの違い】

  • デジタルスレッド:データをつなぎ連続性とトレーサビリティを担う仕組み
  • デジタルツイン:現実を仮想で再現し、分析・予測に活用する仕組み
  • 関係性:デジタルスレッドがデータの土台となり、その上でデジタルツインが機能する

つまり、デジタルツインを正しく動かすには、その裏側にデジタルスレッドという情報の背骨が必要です。デジタルスレッドが整備されていないと、デジタルツインに流し込むデータの出どころや変更履歴があいまいになり、分析結果の信頼性も下がってしまいます。では、デジタルスレッドを整備すると、製造業の現場には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

デジタルスレッドのメリット 製造業のMBSE、SPDM、BOPをつなげる効果

製造業のものづくりは、年々複雑になっています。電動化、ソフトウェア化、サステナビリティ対応、海外拠点との分業など、考慮すべき要素は増える一方で、設計・製造・保守の各部門が扱うデータの量と種類も爆発的に増えています。ここでデジタルスレッドが果たす役割は大きく、特にMBSE、SPDM、BOPの3つの領域をつなぐ効果が注目されています。

MBSE(Model Based Systems Engineering)

まずMBSE(Model Based Systems Engineering:モデルベースシステムズエンジニアリング)は、要求やシステム構造をモデルで表現し、開発の初期段階から手戻りを減らすための手法です。MBSEで定義したシステムモデルを、下流の設計データやBOM(部品表)と切り離さずに連携できれば、要求変更が発生したときに「どの部品まで影響が及ぶのか」を即座に把握できます。これがデジタルスレッドの力です。

SPDM(Simulation Process and Data Management)

次にSPDM(Simulation Process and Data Management)は、CAEなどのシミュレーション結果と業務プロセスを管理する領域です。シミュレーション結果は設計判断の根拠になりますが、どのバージョンのCADモデルに対して、どんな条件で解析したのかが追えないと、後から検証ができません。デジタルスレッドでCADモデル、解析条件、結果データ、判断記録を結びつければ、「なぜこの設計に決まったのか」を時系列でさかのぼれます。

BOP(Bill of Process)

そしてBOP(Bill of Process:工程表)は、製造工程をデータとして定義したものです。設計のBOM(Bill of Materials:部品表)と製造のBOPが断絶していると、設計変更が工程に正しく反映されず、現場での混乱や不良の原因になります。デジタルスレッドはこのEBOM(設計BOM)、MBOM(製造BOM)、BOPの連携を支え、設計変更を工程まで一気通貫で反映する仕組みを実現します。

【デジタルスレッドを整備するメリット】

  • 設計変更の影響範囲を、要求からBOM・工程まで瞬時に把握できる
  • 品質トラブル発生時に、設計判断・製造ロット・保守履歴を一気通貫でトレースできる
  • MBSE・SPDM・BOPなど、これまで分断していた領域のデータを横断的に活用できる
  • デジタルツインの精度が上がり、シミュレーションや予知保全の信頼性が高まる
  • 海外拠点や協力会社との情報共有がスムーズになり、グローバル開発が進む

特に設計変更を出した瞬間に、関連するBOM、工程、サプライヤー手配まで影響範囲が見える状態は、多くの企業が目指してきた理想です。デジタルスレッドは、これを現実のものにする基盤となります。

デジタルスレッドの事例と解決策をご紹介

ここからは、デジタルスレッドが実際にどのように活用されているのか、代表的な事例と、現場で取り組む際の解決策をご紹介します。

【事例1:個別システム統合による情報一元化】

個別最適化された約100のシステムをERP、PLM、MES、MRO等に統合・集約。BOM・BOPを中核に、3DCAD、図面、治工具、解析結果・技術資料を関連付けることで、設計変更や品質不適合の影響範囲を追跡できるようにしました。設計から工場、整備までつなぐデジタルスレッドを実現しています。

【事例2:段階的拡張によるグローバル連携】

ビジネス戦略に基づきTeamcenterを早期採用。第一段階のドキュメント・CAE管理から、CADデータ管理、PLM/ERP(SAP)連携、外部パートナー連携へと4段階で拡張し、3,500ユーザ規模のグローバル協調開発基盤としてデジタルスレッドを段階的に構築。

【現場で取り組むときの解決策】

とはいえ、いきなり全社規模でデジタルスレッドを構築しようとすると失敗しがちです。よくある失敗パターンは、「壮大な構想は描けたが、最初の一歩が踏み出せないまま2〜3年が経過する」というものです。現実的に進めるには、次の3ステップが有効です。

  1. スコープを絞る:まずは一つの製品ラインや一つの業務(例:設計変更管理)に限定して、デジタルスレッドの対象範囲を決める
  2. データの基準を揃える:BOMの体系、部品コード、変更管理のルールを部門横断で統一する
  3. 段階的にツールを連携する:PLM、CAD、CAE、MES、ERPなどを一気にではなく、効果の高い箇所から順に連携していく

このような取り組みを支えるのが、PLM(Product Lifecycle Management)プラットフォームです。電通総研では、シーメンス社のTeamcenter/Teamcenter Xを軸に、設計から製造、保守までのデータをつなぎ、デジタルスレッドを現場で実装するご支援をしています。NX/NX Xによる3D設計データとも連携できるため、設計データを起点としたトレーサビリティの確保にも有効です。

まとめ

製造業のDXが本格化する中、デジタルスレッドは「あったらいい」ではなく「ないと戦えない」基盤になりつつあります。設計変更の影響範囲がすぐに見えない、品質トラブルの原因究明に時間がかかる、海外拠点や協力会社との情報連携に手間取る。こうした課題の根本には、ライフサイクル全体でのトレーサビリティの断絶があります。デジタルスレッドは、まさにその断絶をつなぐ役割を果たします。

ただし、最初から完璧な姿を目指す必要はありません。まずは自社のどこに情報の断絶があるのかを見つけ、設計変更管理など効果の出やすい領域から小さく始めることが、成功への近道です。地道な取り組みの積み重ねが、結果としてデジタルツインや予知保全といった次の一手につながっていきます。

電通総研では、Teamcenter/Teamcenter X、NX/NX Xを活用したPLM導入支援を通じて、お客様のデジタルスレッド構築をご支援しています。