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MBSEの昨今の状況と、ツール・データ連携含めた将来の展望

はじめに

昨今、MBSE(Model Based Systems Engineering)という言葉は以前より広く行きわたり、多くの方々がMBSEへの取り組みを開始されていると感じております。そこで本ブログでは、MBSEはどのような状況にあるのか、また将来的にどのように変化していくのか、MBSEとその取り扱うデータ、ツール、データベースについて考えてみた内容をご紹介したいと思います。(本内容は筆者の将来に向けての想像や推測が多分に入ります。確定したものではございませんのでご了承ください。)

MBSEの昨今

MBSEという言葉から、SysMLツールで描かれた様々なダイアグラムや、CATIA Magicで構築されたシステムモデルをすぐに思い浮かべる方も多いかと思います。モデルを使用してSEを実践することがMBSEである、という観点から、以前はMBSEへの取り組みを始めるとすぐに膨大な知見を盛り込んだ大規模なシステムモデルの作成に着手される方が多い印象でした。

このような大規模モデルは、活用場面や適用する課題を想定せずに作成されるケースが多いため「多大な労力をかけて作成したが現場では全く使われなかった」という話もよくお聞きします。苦労して作成したけれど、一度も使われないままフォルダの奥底に眠っているモデルをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

しかし昨今ではこのような反省を生かし、活用方法や適用課題をあらかじめ念頭に置いてモデルを作成するケースが徐々に増えてきていると感じられます。このようなモデルは必要情報だけを含めた適切な規模で済むことが多く、現場課題の解決に本当に役立つモデルとなります。

このように解決すべき課題を想定し、適切な規模のモデルを構築することを繰り返しながらスケールアップしていくという考え方は、電通総研が掲げている「サステナブルなMBSE」の考えとも一致しています。

図1:昨今のMBSEの変化
(モデルありきの議論から、課題解決の議論へと徐々にシフトしてきている)

MBSEと業務プロセス

現場への適用が広まり始めた結果、昨今では現場ユーザーから「モデルをもっと簡単に見たい」、「自分たちにとって理解しやすいUIで確認したい」といった要望が出てくるようになりました。

CATIA MagicをはじめとするSysMLツールは、SysMLのルールに則って情報を整理し、整理した情報を抽出するには適していますが、現場ユーザーの期待に応えるには、既存ツールに付随しているダイアグラム以上の表現が必要です。昨今ではSysMLツールを補完する形で、システムモデルから必要な情報を抽出し、表現するためのBIツールや可視化ツールの適用も進み始めています。7月にダブリンで開催されたINCOSE ISでもこのようなツールを提供するベンダーの出展が見られました。

このような現場の要求する見せ方を設計するには、さらに精緻に現場課題を理解することが必要です。そのためには現場の業務プロセスを整理し、課題箇所を明確にし、どのような対応で課題を解決するのか、解決する事でどのような利益が得られるのか、といった現状と将来のワークフローを比較し分析することが必要となります。(この話はこちらのブログ「SysMLとは?意味やUMLとの違い、ツールをわかりやすく解説」にも記載しております。)

図2:MBSEによる課題解決の流れ
(ASIS/TOBEを分析して課題を抽出し、その課題を解決するためにMBSEを適用)

MBSEとデータの関係

昨今ではMBSEで使用するツールの数も増えてきています。システムモデルの構築ツールに加えてダッシュボード用のツール、さらに昨今ではMBSEとMBDの連携に取り組まれるお客様も増えており、解析ツールやデータ管理ツールも扱う必要がでてきています。MBSEで組織のサイロ化を解消しようとすると各組織が個別に扱うツールについても考える必要が出てくるため、多様なツールの扱いとその連携はMBSEを推進する上での課題になってきます。

これまではダイレクトインターフェースや、中間ファイルを介することで各種ツールを連携してきていますが、ツールの数が増えインターフェースの数も膨大になると、ツール毎の連携開発や中間ファイルを介した連携は難しくなってきます。

昨今では徐々にツール同士の連携から、ツールが保有するデータベース間でREST APIなどを使用して情報を交換する方法が増えてきています。毎回のファイル生成や手動による入出力の作業、ダイレクトインターフェースの開発といった手間が省けるため、今後はこちらの方向に開発が進むと想定されます。

さらに将来的には、統合されたデータベースに様々なツールがアクセスし、必要な形式で情報を取得するようになると想定されます。高度なクエリー機能を持つグラフデータベースなどがこのデータベースとして期待されます。SysMLv2のリリースが予定されていますが、SysMLv2ではAPIも整備され、さらにプログラミング言語としての側面も併せ持つようになるためAIとの相性も良く、SysMLv2が浸透するにつれてAIの適用も進むと想定されます。7月にダブリンで開催されたINCOSE ISでもAIのセッションでは多くの発表がありましたが、来年のINCOSE ISではさらに講演件数が増えるのではないかと想定されます。

関連ブログ:INCOSE 34th Annual International Symposium 参加報告

図3:ツール連携からデータベースの統合へ ツール連携の将来像
(ツール連携からデータベース連携、データベースの統合へと発展し、必要情報を素早く取り出して意思決定に活用できるようになる)

まとめ

今後のMBSEとツール、データの進化に関する予想を図3にまとめてみました。MBSEはデータやデータベース、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)とも繋がっていくと想定されます。Data Centricという言葉はINCOSE ISでも見られましたので、MBSEとデータやDXの繋がりはさらに深まっていくと予想されます。

こうした絵や、皆様が所属される企業や団体の状況を反映した絵をもとに業務の将来を予想し、発展が見込まれる、あるいは発展させるべき技術について予想し、取り組まれてみるのも面白いのではないかと思います。

徐々に広がりを見せ、業務での活用が本格されていくMBSE。2024年も残り少なくなってきましたが、MBSEを巡る様々な話題について来年以降も書いていきたいと思います。


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