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サロゲートモデルAIを実設計に活かす!
3種類のコースから選ぶ、あなたに合ったサロゲートモデル構築。

エンジニアリング業務への人工知能(AI)の活用

「人工知能(AI)を業務で活用する!」すでにどこの企業でも取り組みを始めているある意味ホットな取組の一つになっています。特にほんの数か月前のChatGPTの新バージョンリリースによる自然言語処理分野における技術の進化とその報道により、AIの専門家ではなく世間一般の多くの人が知っている話題といえるでしょう。多くの人がChatGPTを含めたAI技術の業務活用を今まで以上に考えている、いや考えざるを得ない状況になっていると思います。

私たちと長年お付き合いのある製造業でももちろんAIの活用は大きな取組の一つであり、お客様も意識的に自ら率先してAIを活用しようと取り組んでおられます。その中でも特にお付き合いの深い設計開発を含んだエンジニアリング業務でのAI活用において多くのご相談を頂いています。その中でも特に多くのご相談を頂き、プロジェクト数が一番多い分野は何だと思いますか?「サロゲートモデル」です。

サロゲートモデルとは?

AI技術を利用したサロゲートモデル構築は数年前から専門家の間では取り組みが進んでいましたが、ここ最近は多くの方が知っている、聞いたことがあるワードになってきています。先月(2023年5月)、弊社主催でサロゲートモデルに特化したイベントを開催しましたが想定以上の多くの方に参加いただき、ご相談もいただいています。ここで簡単にサロゲートモデルとその効果について説明をします。

サロゲートモデルとは従来行っていた物理シミュレーションモデルを代替するML/AIの技術です。従来の統計技術でサロゲートモデルを作る場合、モデルの入出力情報を適切に縮約しなければならないなど様々な制約がありました。それに対してAutoMLやPoD(固有直交分解)、ディープラーニングといった新しい機械学習の技術を活用することで、計算をコンパクトにしつつ、現場のユーザーが求める情報を扱える近似モデルの構築が可能になったのです。それにより数日かかっていた流体解析や衝突解析などの大規模シミュレーションの計算時間を数分のオーダーに短縮出来ます。また実施する人や準備内容によりシミュレーションの結果のばらつきが出ていたのですが、AI技術を使って諸々準備をすることでシミュレーションの結果が平準化される効果もあります。

従来のCAEを使ったシミュレーションにおいて上記の図1のような課題があれば、CAE技術を使ったシミュレーションに加えて、CAEをサロゲートモデルに代替することでCAEのスキルが無い設計者でも検証業務を行えるようになり、設計開発業務の改善に繋げることができます。

サロゲートモデルを構築する上での障壁とアプローチ

冒頭にサロゲートモデル構築についての相談を受けることが多いと記載をしましたが、多くのお客様がサロゲートモデルの効果は理解しているのだが構築が進まないというのが困りごととなっています。その理由をいろいろとヒアリングし議論をしてみると、大きく2つの障壁により活用が進まないと苦労をされているお客様が多いのがわかってきました。1つ目はサロゲートモデル構築に必要なAI教師データがないということ、2つ目は自社にあったサロゲートモデルをどう構築していいかわからないということです。この障壁に対してどうアプローチしていくかについて、ご紹介します。

◆サロゲートモデル構築に必要なAI教師データを貯める、作る、使う!

サロゲートモデルを賢くさせるAI教師データにはCAEの解析結果を使います。多くのお客様ではCAEを活用した評価検証が設計開発プロセスの中で当たり前のように活用されるようになりました。そのような背景もあり、サロゲートモデル構築にCAEデータを使いたいと申し出ると「CAE解析結果ならあるよ」というお答えを頂きます。

しかしCAEデータの中身を確認させて頂くと解析データの量がそもそも少なかったり、解析データはたくさんあってもサロゲートモデル構築に必要な解析データがないことが多いです。必要なデータには解析業務の中で発生する『悪いデータ』も含まれます。

一般的に残っている解析データは最終的に製品に反映された「良い解析データ」はPLMなどに保管されていることが多いのですが、その他の解析データは破棄されてしまっていることが多いようです。そのような障壁をお持ちのお客様にはまずは解析データをAI教師データとして活用できるようにルールに沿って貯めるだけでなく、どう作り、どう使っていくかのご提案を行っています。

◆お客様の業務内容や環境、利用システムなどに応じたサロゲートモデル構築の3つのアプローチ

サロゲートモデルをどう構築すればよいのかわからないという話になりますが、一言でAI技術を活用したサロゲートモデルといっても様々な手法があったり、お客様がお持ちの技術やスキルであったり、またどこまでサロゲートモデルのために労力をかけて作りこめばいいのかはお客様の業務内容や環境、利用システムなどによって千差万別です。このような様々な状況からサロゲートモデル構築のとっかかりやどこまでやり切ればいいのかがわからないというのがよく耳にする障壁になります。私たちもお客様と一緒にサロゲートモデルを構築し実設計に活かすお手伝いをする中で、どうすればお客様の投資に見合った最適なサロゲートモデル構築を実現できるかを真剣に考え始めました。その中でこれからご紹介する3つのアプローチをPoCの段階で見極めてご提案をしています。

一つ目はこれまで一番多かったアプローチになりますが、お客様のご要望をお聞きし、弊社のコンサルタントが主になって一品一様でサロゲートモデルを構築するアプローチです。このアプローチはお客様の開発されている製品特性や現状の課題、構築したいサロゲートモデルなどのご要望を基にAI教師データの収集からサロゲートモデル構築を行います。お客様のご要望が反映され、業務に適応しやすい反面、コンサルティングや開発の費用が発生します。コース料理でいう「松コース」にあたる進め方になりますね。

サロゲートモデルを構築する中で弊社内にもいろいろとデータやノウハウが溜まってきました。2つ目のアプローチはそのデータやノウハウをテンプレート化して提供します。ベース部分はテンプレートで補い、テンプレートでは対応できない部分を新規で構築します。お客様の開発されている製品や評価検証の中身がこのテンプレートに当てはまれば非常に大きなメリットです。コース料理の「竹コース」です。

松、竹とこれば最後の3つ目は「梅コース」になりますが、サロゲートモデルを構築できるソフトウェアを利用します。サロゲートモデルを構築できるソフトウェアはいくつか販売されており、汎用的に使えるAI手法やROM(Reduce Order Model)などのサロゲートモデル構築手法などが既に実装されていますが、ソフトウェアによっての強みや実装されている手法がまちまちです。どれが使いやすいか、どれがお客様の設計開発環境にあっているか比較検討が難しいのが実情です。ソフトウェアをうまく活用できればサロゲートモデル構築に必要なAIプログラムの知見やCAEなどの解析業務の知見は必要ありません。私たちはサロゲートモデルの構築に有用な様々な手法が簡単な操作で使えるソフトウェアをいくつか取り扱っていますので、お客様ご自身によるソフトウェアの比較検討できる体験の場を提供し、ご要望に応じたソフトウェアをご提案できます。複数のソフトウェアからお客様にあったソフトウェアを選択いただける「梅コース」をご用意しています。

ご紹介した3つのアプローチについてまずはお客様とのPoCの段階で見極めてご提案をしています。

大規模シミュレーションで活きるサロゲートモデルの有効活用

サロゲートモデル構築するためにはいくつか障壁があり、それを解決するためのアプローチをご紹介してきました。最後に具体的なユースケースをご紹介します。サロゲートモデルが効果を発揮しやすいのは大規模なシミュレーションが必要なケースです。私たちとお付き合いの深い自動車メーカーでは、車体周りの空気流れを予測するCAEに対応するサロゲートモデルを導入して成果が出ています。効果としてこれまで空気抵抗のシミュレーションでは1週間かかるのが当たり前だったのですが、サロゲートモデルの導入により秒~分単位で計算結果が得られるようになっています。同じく流体解析の分野では筐体内の放熱による半導体温度の上昇を冷却するシミュレーションではディープラーニング(DNN)を使った手法により99%以上の時間短縮が実現できています。また車体などの衝突時の衝撃やゴム部品の大規模な変形などの時系列シミュレーションにおいても大きな効果が出ています。このように多くの製品、シミュレーション分野でのユースケースも増えてきており、前述のアプローチを駆使してより効果的なサロゲートモデルのユースケースを増やしていきたいと思います。

AIをパートナーにする設計開発の新しいプロセスを作るEngineering AI

今回のテーマであったサロゲートモデルを含めて、設計開発におけるAIの活用は増えており業務効率化に繋がっています。しかしながら現在製造業が直面している世の中の大きな変化には従来の設計開発を大きく変えることが必要です。設計開発のやり方、プロセスを革新的にすることをお客様が求められています。AIをエンジニアのパートナーにする設計開発の新しいプロセスを作ることを実現するために、今までの私たちの取り組みやソリューションを集約、融合させて新たに「Engineering AI(エンジニアリング・エーアイ)」ブランドを立ち上げ、設計開発業務を含むエンジニアリング業務におけるAI活用をさらに進めています。Engineering AIは「エンジニアに提案するEngineering AI」をキーメッセージとして、エンジニアリング業務においてパートナーであるAIがエンジニアの判断を支援する様々な提案を行う仕組みの実現を目指しています。その仕組みを設計開発業務の新しいプロセスの一つにしたいと考えています。現行の設計開発プロセスには他にも多くの課題があり、AI技術を活用したサロゲートモデルの構築はその一つの解決策(ソリューション)であり、他にも多くのAI技術を活用したEngineering AIソリューションをご用意しております。

ISIDグループはエンジニアリング領域にフォーカスをした多くのAIソリューションを駆使して、製造業の設計開発力の向上をご支援いたします。ご興味をお持ちのお客様、パートナー各社、AI関連企業の皆様、是非お気軽にお問い合わせください。

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