昨今、デジタルによるシミュレーションは設計開発の現場で当たり前に使用されるようになってきました。シミュレーションが一般的になるにつれて、その用途や取り扱う領域は広がりを見せ、様々な領域や方式のシミュレーションが現れてきています。今回はそのようなシミュレーションの方式の一つである分散・連成シミュレーションについて、その意味や重要性と、電通総研が扱う分散・連成シミュレーションプラットフォーム、VenetDCPについて御紹介します。
最初にあらためて、分散・連成シミュレーションの「分散」と「連成」の意味について紹介します。
まず「分散」です。「分散シミュレーション」とは分散配置されている複数台のPCを使用してシミュレーションを行う方式のことを指します。一台のPCによるシミュレーションと比較して多くのリソースを活用できるため、高速で計算実行できるといったメリットがあります。
次に「連成」です。「連成シミュレーション」とは複数のモデルを接続してシミュレーションを行う方式のことを指します。様々なシミュレーションツールやモデルを接続することで、単一モデルでは難しい大規模なシミュレーションや、複数領域に跨るシミュレーションができるようになります。
分散・連成シミュレーションは、活用することでシミュレーション業務を高度化・効率化することができますが、一方で実現に向けての課題もあります。代表的には以下の二点です。
・異なるツールで作成されたモデルの接続
分散・連成シミュレーションを行う際には、異なるツールで作成されたモデルを接続する必要があります。最近では、異なるツール間でモデルを交換・接続するためのオープンな規格、FMI/FMU(Function Mockup Interface / Function Mockup Unit)も登場し、モデル接続の難易度は下がってきていますが、それでも異なるツールで作成されたモデル間の接続設定には手間がかかります。
また、制御モデルを含む場合には多数の信号線を繋ぐのが一般的です。多数の信号線を接続するのは煩雑な作業です。エラーが発生した際には、そのエラーの要因が接続ミスなのかそれともバグなのか、その見極めに多大な工数が必要となります。
・達成に使用するモデルの収集・構築
連成シミュレーションに使用するモデルの収集・構築には、実は多大な手間と時間がかかります。モデルには設計情報のような機密情報が含まれる場合が多いため、他社だけでなく他部署からの収集も難しい、とお聞きすることもあります。特にOEMとサプライヤの連携ではこの機密保持が鍵になり、必要なモデルを集めることができず、連成が進まないこともよくあります。
モデルを入手できない場合、自分たちでモデルを作成する場合もありますが、専門分野ではないため精度の高いモデルを作ることできず、結果として効果的な連成解析ができないこともあります。
このような課題を解決するための方法として、分散・連成シミュレーションプラットフォームの活用が挙げられます。電通総研は分散・連成プラットフォームとして東芝デジタルソリューションズ様の製品であるVenetDCPを提供しています。ここからは分散・連成シミュレーションの特徴と、VenetDCPの機能を御紹介します。
分散・連成シミュレーションプラットフォームとは、その名前の通り分散・連成シミュレーションを行うための基盤のことです。サイバー空間を介してモデルを接続することで、モデルの中身を秘匿したまま自社の環境を使用して連成シミュレーションを行うことができます。モデルのやり取りが発生しないため、モデル交換に抵抗を覚える方でもご利用いただけますし、分散した環境でシミュレーションを行うため、大規模なシミュレーションも可能です。
特にVenetDCPでは、Excelで作成した通信仕様書を基にFMU形式あるいはS-Function形式のバスコネクタを作成し、これを配布することで簡単にモデル同士を接続することができるため、モデル接続の手間もほとんどかかりません。
また連成シミュレーションの適用先としては、自動車関連や航空宇宙、電力の需要供給予測などが挙げられます。ツールとしては、制御系の標準ツールであるSimulinkを始め、Simcenter AmesimやDymola、OpenModelicaといった1D CAEツールをはじめ、GT-SUITEやSTAR-CCM+など様々な領域のツールとの連成実績があります。自動車会社様では海外拠点とのモデル連携にこのVenetDCPを使用された例もあります。
さてVenetDCPのような分散・連成プラットフォームですが、昨今、需要が高くなってきていると感じます。その背景には、MBDをはじめとする、デジタル技術の活用の拡大が挙げられます。
昨今、自動車業界をはじめとする様々な分野で製品の複雑化が進み、設計開発コストは増加の一途を辿っています。設計開発コストを削減するためには開発後段での手戻り削減が重要ですが、手戻り削減のための施策として重要なのがデジタルによる設計検証です。
また製品が複雑化した近年では、複数の企業が協力して一つの製品を作り上げるのが一般的です。複数企業で一つの製品の設計・検証業務のデジタル化を推進するためには、会社や部署の垣根を越えてのモデル連携、デジタル検証が必須となります。
また現在は1D CAEモデル同士の連携や、SILS、MILSへの適用が一般的ですが、近い将来には3D CAEモデル同士の連携や、HILS、実験分野での連成も進むと考えられており、分散・連成シミュレーションの必要性はますます増加すると考えられています。このような分散・連成シミュレーションへの取り組み、御社でも検討されてみてはいかがでしょうか?
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