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技術伝承における知識昇華(FA応用編)

技術伝承では、既にある知識あるいはヒアリングで引き出した知識をそのまま伝承するケースが殆どですが、伝承をする前にあえて「既知の知識」を昇華させることを推奨しております。本稿では、新たな知恵にどうやって昇華させるかについて見ていきます。

※本稿は、技術伝承における暗黙知の形式知化(FA基礎編)の続きになり、FA(Functional Approach)については技術伝承における暗黙知の形式知化(FA基礎編)でご説明しておりますので、合わせてお読みいただくとよりわかりやすい内容となっております。

知識を昇華させ新たな知恵に!

最初に知識昇華をご説明するにあたり2つの格言をご紹介します。

1つ目「人間は何事にも慣れる存在だ」。これはドストエフスキー(ロシアの思想家)の格言。ここでの慣れるとは、順応、適合、同化、溶け込む、習慣になるといった良い側面があります。

2つ目「脱皮できない蛇は滅びる」。こちらはニーチェ(ドイツの哲学者)の格言。これには「向上心を失うな」「常に変化に立ち向かえ」などの想いが秘められていると言われております。

今や急速に変化する時代、人々の意識や社会の在り方が変わり始めています。時代や環境変化に適応するには「慣れ親しんだものに安住せず変化を受け入れ脱皮が不可欠」。この"脱皮"こそ(脱皮に当たるもの)が「知識昇華」だと考えます。「新しい知恵に」昇華しなければならないか、少しでもご興味を持っていただけると嬉しいです。

なぜ慣れから脱却できないのか

ついつい慣れ親しんだ旧文化に安住している、楽なルーティーンワークに終始している、そんな状況はありませんか。使い慣れたものは必ずしも最適解とは限りません。また長い間慣れ親しんだものには先入観や偏見が生まれやすくなります。

楽なものと不便なもの、どちらが良いかと問われると迷わず楽なものを選びますよね。しかし慣れてそれなりに満足してしまった些細な不便には、逆に知識昇華のチャンスが眠っていることもあります。不便だけではなく、不平、不満や隙間を見つけることは、新しい知恵となる絶好の機会となります。先入観、偏見や思い込みを捨て発想の転換を心がけましょう。

図1:よくある先入観/偏見/思い込みと発想の転換

何を昇華させたいか/対象を選定する

はじめに何を昇華させたいのか、テーマの対象を選定します。対象は投入努力と得られる効果のバランスを考え選定します。

図2:相応しい対象/投入努力と得られる効果のバランス

機能を捉えアイデア発想

対象選定後は、昇華のアイデアを発想していきます。

その前に、知識昇華ではどんな道筋をたどるかについて簡単にご説明します。知識昇華とは、対象の機能から機能要求(誰が何を求めているか)制約条件(機能として達成すべき条件)魅力的付加価値(対象の心を掴み満足や感動など魅力的な状態に変えるもの)を考えアイデアを発想し、知識の精度・精密さを高める、または全く新しい知恵に昇華させるアプローチになります。

では「機能要求、制約条件、魅力的付加価値」について順番に見ていきます。

機能要求は何か

まず誰の要求なのか(例:利用者、顧客、取引先会社、会社、社員、投資家、世の中全体)、知識を昇華すると誰が幸せになるのかを明確にし、機能上求めているものは何か、現在の問題は何か、どの程度の改善余地があるのかについて考えます。

次に選定した対象の機能を踏まえ、図3 対象機能と機能要求マトリックスを作成します。

選定した機能を明記し、対象の機能をどの程度昇華させたいか、感覚で良いので目指す「昇華の度合い」を明記します。機能要求についてはこの段階では、思いつくものを挙げてみましょう。

図3:対象機能と機能要求マトリックス

ここまでに機能という言葉がたくさん出てきましたが、機能とは何かをおさえる必要がありますね。FA(Functional Approach)における機能とは、目的(何のため)働き(どうやって)の両方と定義しています。またFAにおける機能表現は「~を(目的語)+~する(他動詞)」で表現します。

機能から制約条件を設定する

次に制約条件を設定します。制約条件とは、物事の成立に必要な規定、機能として達成すべき水準を示した条件と定義しています。

制約条件は、修飾語(形容詞・副詞)を使います。修飾語とは、ある言葉に意味を付け足して飾る言葉です。例えば名詞を飾る「形容詞」(「赤い」リンゴ)や、動詞を飾る「副詞」(「速く」走る)が含まれます。形容詞・副詞は、修飾語の中の一つになります。図4(左)は業務を限定せず「新しい技術を開発する」(機能)からの制約条件を設定したものになります。図4(右)は点検作業という業務において「腐食・損傷を見つける」(機能)から制約条件を設定したものになります。

図4:制約条件

機能から魅力的付加価値を洗い出す

次に機能から図5 魅力的付加価値を洗い出します。同じく点検作業の例で見ていきます。

「腐食・損傷を見つける」ためにはどんな魅力的付加価値があるかを挙げていきます。制約条件は、機能表現、修飾語を使いましたが、魅力的付加価値は箇条書きでよいです。魅力的付加価値は制約条件と重複することもありますが、気にせず自由奔放に思いつくアイデアや工夫をたくさん洗い出しましょう。さらに果たすべき機能を追求し図6 機能本位でアイデアを拡大させます。

図5:魅力的付加価値



図6:機能本位/アイデア拡大

機能を構造化

次に機能構造図を作成します。機能構造図とは、対象の機能において特性・性能・条件を明示し構造化した図です。ここまでアイデア発想した機能要求・制約条件・魅力的付加価値を整理し機能構図を完成させます。

注意しなければならない点は、構造化をすることが目的となってはいけません。アイデアを発想し具体案を導きやすくすることが大切です。上位・構想に近いものから、中位・具体化過程を経て、下位・設計仕様に近いものへと機能を構造化しアイデアを連想・発展させ具現化します。具現化の過程では、細部仕様の設計、機能研究、コスト分析、適合化(適合性フィルター)、全体構想の具現化、仕様化、改善策のテストと証明などを実施しますが本稿では割愛します。

図7:機能構造図

勘違いされやすいフレームワーク

ここでよく機能構造図と勘違いされやすいフレームワークをご紹介します。機能構造図を作成する際に、必ずと言っていいほど図8と何が違うのかというご質問をいただきます。機能構造図と図8は、形こそ似ていますが、使う用途が全く異なるため、しっかり目的を理解することが重要です。

図8:勘違いされやすいフレームワーク

Functional Approach × frogThink

アイデア創造では、Functional Approach × frogThinkをプラスαで取り入れています。frogThinkは、米frong社が考案したイノベーション手法です。frogThinkをもとにアイデアを展開できる教材を開発しておりますのでご興味がある方はぜひ弊社までご連絡ください。

frogThink:流動的な直観と厳密な論理のあいだに程よい衝突をもたらせつつ
イノベーションを目指すアプローチ ※ frogThink:米frong社考案

図9:Functional Approach × frogThink

アイデア提案書と概略評価

アイデア具現化後、アイデア提案書を作成し概略評価を実施します。対象テーマの業務を熟知した方が適正な判断と評価を行い、判定のコメントを述べ「知識昇華」採用の有無を決定します。

図10:アイデア提案書

図11:概略評価

まとめ

今回ご紹介した知識昇華(FA応用編)は、業務の効率化、知識・技術の深化に役立ち、テクノロジーの精度向上にも一役買います。技術伝承活動をご支援させていただく中、お客様から「知識や技術を昇華させたい」とたくさんの声やご要望をいただき「機能」からアイデア発想するアプローチを考案・まとめたものになります。

FAにおける機能とは、文中でもご説明したように「目的(何のため)働き(どうやって)」と実にシンプルです。機能という物事の根源に立ちかえり、新しい知恵を生み出す、新しい時代を切り拓くヒントになれば幸いです。

図12:形式知を新しい知恵に!

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