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サプライチェーンの需要予測は人とAIが協力する時代へ

生成系だけではない、すでにビジネスで使われているAIとは

こんにちは。ISIDでデータサイエンティストをしている太田です。

ChatGPTなどの生成系AIで一層注目を集めているAI技術ですが、生成系AIの登場以前から多くの分野でビジネスに活用されてきました。この記事では、サプライチェーンの現場で欠かせない「需要予測」について、AI技術を活用するという観点でご説明します。

需要予測とは、将来売れる商品の数量を予測することです。言うまでもなく、需要予測を行うことで生産計画、在庫管理、マーケティングやセールスに活用できます。

従来、製造業などは販売実績などのデータから需要予測を行ってきましたが、最近は販売実績を用いた需要予測だけでなく、様々な情報を組み合わせた機械学習・AIでの需要予測の事例が増えてきました。

本記事では、サプライチェーンの需要予測AIの現状と私たちが目指す方向を解説します。

サプライチェーンにおける需要予測が必要な場面

最初に図のような各業務のフローを例として想定し、それぞれの部門が需要予測で何を行いたいかを説明します。

  1. 営業部門
    バックオーダーへの対応および短期~中期の予算達成のため必要な商材の数を予測し、販売計画を達成するために必要な在庫の確保を生産管理部にリクエストしたい。
  2. 生産管理部門
    中期~長期で製品の必要生産数を予測することで、生産部門の生産ライン確保や人員計画を策定したい。
  3. 購買・調達部門
    生産に必要、かつ余剰や不足の無い部材調達計画を策定したい。

※なぜ需要予測が必要かなど、もっと詳しく知りたい方はISIDのAI専門部署であるAIトランスフォーメーションセンター(AITC)が執筆したコラムをご覧ください。

需要予測の現状

このように需要予測の業務は多くのプロセス・関係部門にわたり、それぞれが密接にかかわる複雑な業務です。分析すべきデータも多岐に渡るため、そのデータをAIで分析ができれば、生産計画や販売計画の作成に役立つ需要予測ができると考え、各社が取り組んでいます。

以下がその取組みにおける代表的なケースです。

  • 社内横断的なDX部門を設け、需要予測に挑戦
  • 各部門がそれぞれ自分の業務を対象に需要予測に挑戦
  • 社外のパートナーに外注し、需要予測に挑戦
  • 需要予測機能のある製品の導入検討

しかし、これまで行われた需要予測プロジェクトでは、実に数多くの失敗が積み重ねられてきました。結局いまだに過去の販売実績や熟練者の勘と経験に頼った需要予測を行っている企業は沢山あります。これらの企業は、どういったポイントで躓いてきたのでしょうか?

需要予測プロジェクトでつまずくポイント

需要予測に限らず、AIやデータ活用のプロジェクトを進めるにあたってつまずきやすい代表的なポイントの一例は以下の通りです。

  • データが各部門から共有されない。あるいは他部門のデータの内容が理解できない。
  • データが不足している。あるいはデータの統合に時間がかかる。
  • データの共有のための社内調整に時間を要する。
  • 外注ベンダーとのコミニケーションコストが高い。
  • PoC(概念実証)でAIを仮運用したら精度が低かったため、PoCでプロジェクトが終了した。
  • 製品の導入を試みたが利用できる人が限られて定着しない。

これらはあくまで一例で、上記以外にも沢山つまずくポイントはあるでしょう。

ここからは、需要予測を実現するためのAIが、なぜ難しいかについてご説明します。

需要予測AIの構築・運用の難しさ

需要予測は、シンプルなテーブルデータを取り扱う事が多いため初学者でも取り組みやすく、ある程度までは精度が出るタスクです。

しかし、実務で利用できるレベルまで精度を求めようとすると、実は難易度が高いのも特徴です。

難しい理由は大きく3つあります。

  • 多品種少量生産による予測対象の多さ
  • 需要予測AIに求められる予測精度の高さ
  • 需要予測AI(に限らずAI全般にいえる)運用の落とし穴

多品種少量生産による予測対象の多さ

予測すべき商材など、対象数が多いほど予測は難しくなります。
各品種の特性と顧客ごとの購買動向があり、ひとつひとつ個別に対応すると時間がかかります。

例えば、一つの商材であっても、ランク、バージョン、色、別商材との共通パーツの有無、市販品か特注品かなど、管理すべき情報が実に多岐に渡ります。
さらに工場の生産手配準備の情報、販売見込みの情報、発注時期の違いなど個別事情がでてきます。
そこに発注元の方針転換などの影響までも考慮すると、過去の注文履歴でも意味のある区間は顧客ごとに異なります。

要は商材に関連するデータは、どこまで具体化・抽象化するのかが難しいのです。

こうした課題に対し、データサイエンティストあるいは需要予測のプロフェッショナルは、大抵は数ヶ月と短いプロジェクト期間でどこまで考慮するかを取捨選択します。

その中で、ある商材群はこの特徴を使い、別の商材群にはこの特徴を使い、とケースバイケースにするのは非常に難易度が高いうえ精度が出たとしても再現性が低いため、あまり用いられません。需要予測の個別化は多品種だと非常に難しいのが現実です。

需要予測AIに求められる予測精度の高さ

精度とは、予測値と実績値とのズレです。比率や数量で表す場合もあります。一般的に、実績との誤差10%以下の精度を求めるのは特定の条件以外は非常に難しいタスクとなります。

精度が落ちる条件は多岐に渡りますが、いくつか紹介します。

AIによる予測の精度が落ちるケース

  • 長期にわたる予測
  • 外的要因が大きい(感染症の流行や異常気象など)
  • 予測期間や商材のカテゴリ粒度が細かい(予測の粒度:月週日単位、予測対象の商材:大中小カテゴリ)
  • 実績に人が見て分かるトレンドや周期がない
  • 過去データが月単位でまとまっておらず、最低2年以上蓄積されていない など

これらのケースを乗り越え、精度を上げる方法には、例えば、経験者の知識を特徴量にするなどがあります。

ある顧客は直前で毎度発注をする、この商材はセットで買うなどの実務で覚えた経験を元データのエクセル列に追記することで、AIが判断できる情報が増え、予測精度が上がる可能性はあります。

精度向上にはそういった地道な工夫をどれだけできるかが重要であり、そのため時間も手間も要します。

需要予測AI運用の落とし穴

これまで説明した苦労を乗り越え、期待できる精度が出せる需要予測AIモデルを開発できたとしても、まだまだ苦労は続きます。

需要予測AIモデルは、一度構築したらずっと使い続けられるという事はなく、AIモデルの精度は時間の経過とともに必ず低下していくため、再学習などのメンテナンスを続けて運用していくことが必要となります。

運用の中で、最新の販売実績をAIに学習させるだけで済めばまだ楽なのですが、それでも難しい場合は、通常はその都度デマンドプランナーや外部のベンダーに頼る必要があります。

また、これらの運用では、需要予測AIのモデルをいつ更新するかがセンシティブで難しい問題となります。なぜなら、今から半年後の予測の精度が高いか低いか、その答えが出るのは半年後になるからです。

もちろん半年前までの販売実績を需要予測AIに学習させ、先月の実績を予測することは確かに重要です。

しかし、半年前の実績までの学習結果をもとに直近精度が高いモデルは果たして今月から半年後も正しく需要を予測できるのでしょうか。

他にも毎月最新データをもとに需要予測AIモデルを更新すると考えると、先月は精度が出ていたのに今月は精度が出ない場合が起こりえます。

これが需要予測AIを運用していく上での落とし穴です。

ISIDが目指す姿:人とAIが共に成長し業務効率化

ここまで難しい事を並べると、AIでの需要予測業務の自動化が夢のような話に感じますが、私たちISIDはいくつもの需要予測案件でお客様をご支援する中で、目指す方向性が見えてきました。

「人と共にAIも成長させ、相互補完を目指す」

AIは完璧ではないため、完全な自動化は難しい。特にビジネスにおいては、どこまでいっても人による最終的な判断が求められます。

しかし、人間も若手とベテランに経験の差がある点や、ベテランでも判断ミスをするなど、完璧にできないからこそAIの力を頼ります。

私たちは、需要予測において人とAIがそれぞれ得意・不得意な業務かどうかを判断し、AIを活用するスタンスを以下のマトリックスで考えています。

図中の各領域での意思決定の仕方を記載しました。

左下の「人間が不得意だがAIが得意な領域」を、どれだけ増やすのかが一番のポイントだと考えます。

もし、まだ人が予測するのが得意・不得意な製品領域や傾向をグループ化できていない場合は、まずはそこを分析するところから始めてはいかがでしょうか。

業務でAIを活用するためには、まず人を知り、次にAIを知ることが大切です。ISIDでは、AIを適応する範囲の切り分けからご支援をしております。

需要予測AIソリューションを開発しています

私たちは、いくつもの需要予測プロジェクトでお客様をご支援してきた経験を活かし、需要予測AIソリューションを開発しています。

それは、「販売計画向け営業見込み支援ソリューション」です。

私たちは、現状の需要予測業務では、販売計画の質が低いことが生産計画に影響を及ぼし、そのため関連する業務量の増大や精度の低下につながっていると考えています。そのため、まず販売計画の質を高めるために営業の長期見込み記入の精度向上を目指します。

具体的には上記の図のように、販社・顧客提供情報の信頼性、履歴データからのAIによる予測、過去の営業の方の見込み精度を提供します。

ユースケース1:
営業が自身の見込みがどれだけ確からしいかをAIを通じて確認できる。
ユースケース2:
AIの予測値や実績傾向から見込みの記入ミスや記入漏れ検知し、営業にアラートを上げる。
ユースケース3:
顧客からの発注、営業が作成した見込み、AIの予測を比較できる。

これらは全て質の高い長期見込みの作成につながると考えます。具体的なデモアプリケーションも作成しておりますので、詳しくはこちらの動画をご覧ください。

これらに使用しているAIの精度に関しては、もちろんお客様ごとに個別の状況を考慮したご支援を提供可能ですので、お気軽にご相談ください。

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