先進安全運転支援システム(ADAS)を搭載した車はかなり増えてきました。筆者は週末に自分が運転して長距離を移動する機会がとても多いのですが、愛車に搭載されたADASにはいつもお世話になっています。数年前までは、遅い前走車がいるとついついイライラしたり、スピードを出して追い抜いたりしたくなることがありました。しかし、今では前走車に対してあらかじめ設定した車間距離を保ちながら自動で追従してくれる運転の楽(ラク)さを知ってしまい、好んで前走車の後ろについて走るようになりました。走行レーンの中心付近を維持できるようにステアリング操舵をアシストする力が自動で入り、運転時の疲れも軽減されている気がします。前走車が急ブレーキをかけても、いざという時は急停止をサポートしてくれるという機能まで搭載されているのでとても安心です。(こんなシーンは、実際に体感したくはないですが・・・)
一方で、こういった運転支援システムが自分の意図と違う動きをしてヒヤッとしたり、戸惑ったりすることもありませんか?赤信号で停車する直前に前走車が左折していなくなったとたん、自車がスペースを詰めようとして加速し慌ててブレーキを踏んだり、よくわからない警告音が頻繁に鳴ってしまったり。ADASはあくまで運転支援であることを認識し、システム作動中も運転中と変わらず気を抜かないことが重要です。
しかしながら自動運転となるとどうでしょう。筆者はまだ実際に自動運転機能を有する車に乗ったことがありませんが、自動運転ということは車に運転を任せるということになります。果たして不安を感じずに乗車することはできるのでしょうか。
ドライバーが不安を感じずに乗車するためには、自動車を「信頼する」必要があります。そのためには自動車におけるHMI(Human Machine Interface)と呼ばれる機能がとても重要な役割を果たします。自動車が次に起こすアクションを事前にドライバーに伝え、危険が迫っている時は警告し、レーンチェンジや追い抜きなど、何か新しい動きをしたい時はドライバーに提案して承認を得る。ドライバーの異変を感じて安全に停車する。これらはすべてHMIの機能です。こういった、「人と人のコミュニケーション」とも共通する、信頼を得るためのプロセスを踏んで行くことで、ドライバーは安心して運転を自動車に任せられることになるのです。
繰り返しになりますが、HMIは人が安心して自動運転に乗車するために重要な役割を担っています。
そのためHMIには以下の2つが要件として求められます。
そしてこれらは実際に自動運転車の中でシステムとして正しく作動する必要があります。
自動車は、世界中の極寒~灼熱の温度環境の中、様々な路面で走行しながら生じる振動等、非常に過酷な環境に当たり前のように適応し、性別、人種、年齢層等が異なる様々なドライバーに対応することが求められます。たった2つの一見シンプルにも見える要件を満たすだけでも、開発者にとって非常にハードルが高いシステムなのです。
前述の通りHMI開発においては様々な課題をクリアしていく必要があります。その課題の一つとして「開発のフロントローディング」があります。
従来のHMI開発では、まず、どのようなシーンでどのような表示をさせるのかを開発初期段階で企画・検討します。その後、試作車に搭載して表示内容を検証できるようになるまで数か月かかるのが一般的です。従って、HMI開発者にとっては、オフィスで検討完了したHMIが数か月後にようやく実車環境で動作確認開始できるようになるわけです。
そして、開発者が実車で評価してみると、HMI表示による「感じ方」が、オフィスと実車ではかなり異なるということが頻繁に起こるそうです。オフィスのパソコン上では細部までしっかりと作りこんだ部分でも見えますが、実車のメーターディスプレイに表示させると表示が小さくて見えづらいということが理由の1つです。しかし、何より「ドライバーが運転動作を伴った形でハンドル越しに見る」ことが「感じ方」が違和感を覚える1番の要因になると言われております。そして、実車が出来た後にHMIを作り変えるには、多大な手戻りの時間と費用が発生してしまうのです。
従って、開発初期段階から、実車に近い雰囲気で、かつ実際に運転しているシチュエーションで検証できる環境が求められている、と言えます。
従来開発での時間、コストなどの課題を解決する手段の1つとしてドライビングシミュレーターが注目されています。
ドライビングシミュレーターを使えば前述の課題を解決することが可能となるばかりか、実車では難しい「危険なシチュエーション」でのHMI表示も安全に検証することが可能となります。バーチャル空間に再現した路面や環境、周辺交通流を大型のディスプレイに投影し、実際に運転をしながらシーン毎に表示されるHMIを検証することが可能となるのです。
ISID グループが提供するドライビングシミュレーター:VDX Studio
ドライビングシミュレーターを使えば、試作車を作る前段階で、開発中のHMI表示をすぐに検証できるようになりますが、さらにお手軽な検証方法もあります。それは実際に走行する車の中でバーチャルのHMI表示を重畳表示させてしまうMR(Mixed Reality)を使った技術です。
Mixed Realityを使ったHMI評価
実車でMRを使って評価するメリットは以下の通りです。
弊社で構築したこの評価環境はドライビングシミュレーターの弱点をカバーしながら、試作車を作らずにHMI評価が可能なため非常に高い評価を頂いているシステムです。
ドライビングシミュレーターやMRを使ってリアルとバーチャルを融合することでHMI開発のフロントローディングを実現できます。
これらは試作車(試作品)を伴う従来の開発手法と比較して、格段に開発スピードが高まるばかりか、予算削減にも貢献し、何よりHMIとして求められる要件を満足することでドライバーが安心して自動運転に乗車できるようになります。
ISIDグループではこのような開発の技術支援を通じて自動運転の普及や事故のない社会の実現に貢献していきます!