AI内製化とは企業自らが主体となってAI導入を進めることです。昨今、ITシステムの導入を外部企業に委託するのではなく、企業自らが主体となって進めるITシステムの内製化を実施する企業が増えました。ITの内製化を推進するために、IT系企業をM&Aするケースも増えています。ITシステムと同様にAIも内製化を進める動きがあり、ISIDでも内製化のご相談をいただくようになりました。
以下では内製化の事例やメリット・デメリット、進め方についてご紹介していきます。
昨今AI内製化に関する事例が増えてきました。弊社でも自社によるAIシステムの開発や運用を可能にするAIプラットフォームの提供やAIという技術についての理解を深める人材育成サービスを通じて内製化をご支援してきましたので、以下で事例をご紹介いたします。
あるお客様ではAI活用に取り組んでいるものの、AI活用は各部署のメンバーのスキルに依存していました。そのためAI活用に関してはExcelで実現できる範囲でしか実施できないという現場部署も多くありました。その上、現場でのAI活用をサポートする役割を担うDX部門のAI人材も人数が限られていて、サポートを依頼しても対応に時間が掛かるなどの課題がありました。そこでISIDではAIシステムの開発や運用を可能にするAIプラットフォームOpTApfの導入をご支援しました。
その結果、現場部署のメンバーでもAI活用が可能になり、さらにDX部門でもAIモデルの構築・評価を効率化することができました。
またISIDで実施した内製化に関する公開事例もありますので、興味のある方は本記事と合わせてご覧ください。
ここからは、AI内製化による大きなメリットを「時間」「カネ」「人」「適用範囲」の4点に沿ってご紹介します。
まずは時間に関するメリットです。
ビジネス環境の変化に対応するためには、変化に対応するためのシステムなどを迅速に導入することが必要です。しかしAIはその特性上、精度の高いモデルの作成にはトライ&エラーが必要になり、その作業を都度外部のベンダーに発注していては、作業のたびに要件定義→見積→発注の手続きや様々なコミュニケーションが多くなり、AIシステム導入にかかる期間が長くなりがちです。
それに対し、自社によるAI内製化を進めれば、モデルの精度向上のためのトライ&エラーのサイクルを自社内でコンパクトに回すことができ、結果的に短期間でのAIシステム導入につながります
2つめは「カネ」に関するメリットです。
AIシステムは通常のITシステムと同様、初期導入コストに加えてシステムの保守などの運用コストがかかります。またコストとして見逃しがちなのが、時間経過とともにAIモデルの精度が劣化(※)することへの対応コストです。
AI内製化を進めた場合、精度劣化への対応も上記の通り自社でスピーディーに実施することができるため、外注に比べて大幅にコストを圧縮することが可能です。
(※時間や環境の変化とともにデータが変化するため、一般的にAIモデルは精度の維持・向上のために再学習などの運用が必要と言われています)
3つ目は「ヒト」の部分に関するメリットです。
自社のデータをAIで活用できるようにするには「前処理」と呼ばれる様々な加工作業が必要ですが、その方法は各企業が持つデータによって異なります。これらを社内のメンバー自身が把握していることで次のようなメリットを享受できます。
これらはいずれも企業のデータ活用を支援するデータサイエンティストが持つべきスキルですが、業務に精通したメンバーがAIを扱えることで実務とAI技術を兼ね備えるAI人材を生み出すこともできます。
最後の4つ目はAIの「適用範囲」に関するメリットです。
企業には、外部に出せない重要データがありますが、自社でAIを活用できればこれらのデータを活用したモデルを構築することも可能です。
以前お客様に、製造ラインのトラブル情報やデータの性質は外部に出したくないので、データのラベル名や日報は渡せないということでそれらを除いたデータでAIモデルを構築したことがありますが、これらの情報を活用したほうがよりよいAIモデルを構築できた可能性が高いです。こうした例からもわかるように、AIの内製化を進めれば様々な情報が活用しやすい状況で、より適切な加工や精度向上案を出せる可能性が高まります。
これまでAI内製化のメリットをご紹介してきましたが、もちろんそれに伴うデメリット(リスク・負担)もあります。
最も代表的なのは、「AI人材の採用・育成コスト」と「継続的な運用の負担」です。
AI内製化には、AIに精通した人材を採用したり、社内でAI人材を育成する必要があり、そのどちらもコストがかかります。特に社内でAI人材を育成する場合には多くの時間とノウハウが必要となるため、社外のサービスを活用するという選択もあります。
ISIDではこれまで250件以上にわたるお客様のAIプロジェクトを支援してきた実績とノウハウを生かし、AIを業務に活用できる力を身に着ける実践的なAI人材育成サービスを提供しています。興味のある方はご覧ください。
先述のとおり、AIは導入した後の運用も精度維持や改善の観点から重要です。導入時のメンバーが異動などで部署を去った場合にも継続的に運用できるように、属人的でない運用設計にする必要があります。こちらについてはモデルの精度管理などの運用業務が可能なAIプラットフォームを導入し、環境を統一するなどの対策でリスクを分散させる方法が有効です。
これまでご紹介したAI内製化のメリットやデメリット(リスク)を理解したうえで実際にAIの内製化を進めるにあたって、重要な3つの観点を常に意識する必要があります。
3つの観点とは、以下の通りです。
企業でAI技術を導入し成果を生むためには、AIを適用するテーマ(業務)を正しく評価する必要があります。これまで私たちは、AIの技術を活用する事自体が目的となってしまい、POC(概念実証)の結果をもって実際の業務に導入する判断を下せないというプロジェクトを、沢山見てきました。AI活用の本来の目的は「データを活用すること」ではなく、「データを活用して業務で継続的に成果を生むこと」のはずですので、AIを導入するテーマを選定する際には目的や成果など大きなゴールだけを見るのではなく、現在の業務の課題や持っているデータなども加味して考えなければなりません。現場部門のAI活用を支援する部署であれば、テーマの候補リストの作成方法や優先順位の検討方法を確立する必要があります。AIは万能の技術ではないため活用が適したテーマと適さないテーマがあり、見極めが重要です。
ここについては多くの企業が課題を持っており、弊社でも以前AI導入のテーマの検討を進めるための人材を社内で育成したいとのご要望をいただいたことがあります。その際に、再現性・合理性を高めるため考え方の元となるフレームワークも提供して欲しいとのご要望をいただきました。その際はISIDで提供しているAusical(オーシカル)というAI活用のためのフレームワークでテーマの整理をしながら、AI内製化の考え方やコツをお伝えするというご支援をいたしました。Ausicalについて興味がある方はこちらもご覧ください。
AIを導入するテーマを決めたら、次はモデルの構築・評価について考える必要があります。AIモデルの構築・評価の内製化の取り組みとしては、AIプラットフォームの導入やAI人材育成を実施することが考えられます。AIプラットフォームを導入すればAIのモデル構築に必要な作業がシステムの支援により削減されます。それによりAIに関するスキルが少ないメンバーでもAIモデルの構築・評価が可能になるだけでなく、スキルのあるメンバーがシステムの支援を得て現在よりも多くのAIモデルの構築・評価を行えることが期待できます。またこの際、知見のあるメンバーが行った構築・評価の作業内容をナレッジ化して社内に共有したり、知見のあるメンバーが他のメンバーにノウハウを教えるという観点も重要です。AIの活用は、「やってみないと分からない」という不確実性を伴うため、「知識の獲得」だけでなく「実践の機会」が不可欠です。AI人材育成の現場ではPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)という手法が多く用いられますが、AIプラットフォームの活用による効率化と並行してスキルの共有を目的とした社内のAI人材育成をうまく進めれば、各メンバーのAI技術への理解とともに会社全体のAIに関するケーパビリティ向上につながります。
AIの特性として、時間経過とともに入力するデータが変化し、構築時の精度を維持できないという問題があります。従ってAIシステムを導入する際は、モデルの再学習まで考慮した仕組みを構築する必要があるというのは前述のとおりです。AIモデルの構築・評価から運用まで考慮されたAIプラットフォームを導入することで、社内の管理者やデータサイエンティストの作業も効率化できます。更に、AIプラットフォームはこれらの作業がノウハウある人に属人化するリスクも削減してくれます。
今回はAIの内製化の事例、メリット・デメリット、進め方についてご紹介しました。ISIDではAIの内製化に関する幅広いご支援を行っていますので、内容が気になる方はぜひお問い合わせください。