近年、製造業における開発期間短縮・多品種生産のトレンドを受けて、開発の効率化・手戻り削減を目的に、モデルベース開発(MBD)が製造業各社で推進されています。
一方で、モデルを構築したが業務でうまく活用できないという声や、そもそも構築したモデルが妥当であるかわからないという声も耳にします。我々ISID Grは豊富なMBD支援実績と、製造業出身者の業務経験、モデル構築・活用知見により、MBDを円滑に推進できます。
今回は表記モデル、数理モデルの構築、表記モデル-数理モデル連携の重要性という3つのポイントに分けて、事例を紹介します。(図1)
図 1. V字モデルにおける表記モデル、数理モデルの位置付け
表記モデルの記述は、上位要求から下位要求までのトレーサビリティの確保、着目する現象のメカニズム解明、検証項目の早期定義などに有効です。
理由は開発対象の各階層(システム - サブシステム - コンポーネントなど)で、要求図・振る舞い図・構造図の記述により、システム全体における各要素間の繋がりに加え、各要素の役割や、複数要素を跨ぐ振る舞いについて理解できるためです。その結果、仮に任意の要素が設計変更となった際の影響範囲(図2)や、数理モデルの構築に必要なメカニズム情報まで把握できます。さらに、システムの要求を構想設計段階で明確にすることで、後ろ倒しになりがちなテストケースについて開発の前段で定義でき、出図前にテスト計画を立案が可能です。
図2. 表記モデルを活用した、部品変更時の影響確認例
ここで一例として、表記モデルの記述・検討例を紹介します。初めに開発対象のライフサイクルを分析し、関係者間で定義した粒度でコンテキスト分析、要求分析を行います。(図3)要求が明確になることで、同階層の振る舞い、構造を正しく導くことができ、下位階層における要求-振る舞い-構造も正しく導くことができます。仮に開発対象が、既存製品の流用がメインであっても、後に実施する数理モデルの構築、及び、シミュレーションによる性能の当たり付けを意識すると、要求・振る舞いの明確化は必須です。例えば、電動機の効率を上げたい場合、要求・振る舞いの把握に加えて、熱損失や機械損失が発生する箇所まで特定することに加えて、具体的な計算式、性能に寄与するパラメータまで特定します。その結果、原理原則に基づいた数理モデルの構築が可能になる上、要求が明確になるためテストケースの定義も可能になります。
図3. ライフサイクル分析した粒度で要求分析を実施する例
以上より、検討した内容をメモ書きやワイガヤで終わらせるのではなく、関係者間での認識合わせ、開発エビデンスの資産化、問題発生時の立ち返り先のために、要求-振る舞い-構造のトレースが取れた表記モデルとして整理が重要です。具体的には、要求を整理する要求図、振る舞いを表現するアクティビティ図、構造間のやり取りを明確にする内部ブロック図などが挙げられます。
原理原則に基づいた数理モデルは、性能背反の紐解きを目的としたパラメータスタディ(図4)を効率的に実施するために重要です。
図4. パラメータスタディ例
理由は、開発対象にもよりますが、表記モデルを本格的に構築した結果、頭やオフィスツールだけでは処理・整理しにくいほどの情報量になることがあるためです。開発対象の付加価値向上に伴う複雑化、他システムとの連携の増加により満たすべき性能の数、各性能の背反に関連する特性値の数は近年増えており、手計算だけでは限界があります。それでは複雑な開発対象のパラメータスタディを効率的に実施するために、数理モデルを準備するにはどうすればよいのでしょうか。
ISID Grは予め、開発対象の性能メカニズムを明確にすることが重要と考えます。これにより、具体的に現象を定式により表現できます。既に表記モデルを記述してれば、開発対象の性能メカニズムが明確になっているはずですが、パラメータスタディの実施を計画している段階でメカニズムが明確でない場合、表記モデルに立ち返り、システムの振る舞いを中心に原理原則で再度検討する必要があります。
そしてメカニズムが明らかになったら、表記モデルを参考に解析ツール上で数理モデルを構築します。(図5)解析ツールの活用により、シミュレーションにより定量的な計算ができるため、表記モデルで定義した要求を満たしているか、効率的に確認できます。
図5. 表記モデルを参考にした、解析ツール上での数理モデル構築
以上から、パラメータスタディを効率的に実施するために、メカニズムを明らかにし、上位の表記モデルと整合が取れた根拠ある数理モデルを構築しておくことが重要です。
ここまで表記モデルと数理モデルの必要性について述べてきましたが、MBDの効果を最大化するために、表記モデルと数理モデルを連携が重要です。
理由は表記モデルと数理モデルの連携が欠けてしまうと、どちらかのモデルに変更があった際、もう一方のモデルに反映できず、検証を正しく行うことが困難になるためです。
例えば、表記モデルで要求が追加された際、要求に紐づく振る舞いがあるはずですが、数理モデルに反映されなかった場合、上位要求を取りこぼしてしまうリスクがあります。その場合、正しく検証ができません。ところで何故、表記モデルと数理モデルの連携に課題があるのでしょうか。理由は2点あると考えます。1つ目は表記モデル・数理モデルの両方に精通した技術者が少ないこと、2つ目は表記モデルを構築する部署、数理モデルを構築する部署の連携が不足しているためです。
1つ目について、表記-数理のモデル構築知見を持ち合わせることは、短期で習得できるものではありませんが、2つ目の部署間連携については、比較的、早期に解決できるのではないでしょうか。MBDとして実現したいことを組織として描けていれば、表記-数理モデルを俯瞰して、マネジメントする役割を置くことで、連携が容易になります。(図6)ここで注意が必要なのは、俯瞰する役割をボランティアで行わせるのではなく、組織を動かすためにも明確な権限付与が必要です。その結果、表記-数理モデルの連携を促進でき、検証フェーズで確認すべきことを漏れなく、効率的に進めることができるようになり、手戻りの削減などMBDの効果を組織として実感できます。
図6. 表記モデル-数理モデルを俯瞰する役割
以上より、表記モデルと数理モデルの連携が重要です。
今回は表記モデル・数理モデルの構築、及び、各モデル間の連携の重要性について述べてきました。各社においてもMBDの取り組みが推進されておりますが、想定以上に苦労されているケースを目の当たりにしてきました。我々ISID Grは、モデルベース開発の豊富な支援実績に加えて、国内大手自動車・電機・重工・精密メーカー出身の技術者・コンサルタントが多く在籍しています。そのため、我々には各ドメイン知識が豊富にあり、お客様に対して、表記-数理モデルのTo be像を提示できます。さらに、各社で成功させてきた業務改革経験から、全社展開の推進・部署間を取り持つPMO支援まで可能です。具体的には、業務改革での目指す姿を導くところから、KGI、KPIの設定、ドメイン部署の巻き込み、大組織でのMBD推進ノウハウの提供が可能です。ご興味を持たれましたら、是非ご相談ください。
またISID Grが有するシステム設計力強化研修やCAEのための教育について、一部無料の動画もございますので是非ご覧ください。