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ものづくりの楽しさと、企業の競争力向上の両立

活力のないものづくり現場

昨今の製造業バリューチェーンを取り巻くさまざまな外部環境変化の中、企業は様々な課題に直面している。
我々はそれらに対策を講じるため、各企業に対して、業務改革、システム導入等のコンサルティング支援を行っている。
我々が日々ご支援させていただいている企業の中には、残念ながら活力がない現場も見受けられる。このような現場の状態について、ヒアリングを進めると、下記のような技術者像が浮かび上がる。

  • 与えられた仕事をこなすだけで、能動的に業務を進める姿勢が薄く、行動に活力が無い技術者
  • 自分の本業を見失い、議事録作成、予定調整ばかりの毎日に疑問をもたない若手技術者
  • レビューのみで手を動かさない評論家のような技術者
  • 問題に気づいてはいるものの、改善を推し進めることをせず事なかれ主義の技術者

未来に向かうための改革活動の支援のなかで、このような状態を目の当たりにしていると、はたして製造業の未来はこのままで本当に大丈夫なのか?という危機感を覚えることも多い。

ものづくりの現場が楽しくないとどうなってしまうのか

果たして日本の製造業の未来はこのままで大丈夫なのか。

ものづくり企業への就職人気の低下

このような懸念は就職人気に滲み出ている。
新卒の人気企業にはかつては名だたる製造業が上位を占めていたが、現在はほぼ製造業以外に占められている(下図)
人手不足全盛期の昨今、新卒の就職人気が落ちているということは、人材獲得競争に負けていると言える。
このままいくと、ものづくり企業は日本で最高レベルの人材を集められない。

24卒学生 就職注目企業ランキング
順位 企業名
1 アクセンチュア株式会社
2 レバレジーズ株式会社
3 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
4 株式会社オープンハウス
5 株式会社キーエンス
6 株式会社野村総合研究所
7 株式会社サイバーエージェント
8 Sky株式会社
9 富士通株式会社
10 株式会社日立製作所

出典:働きがい研究所 by openwork
24卒就活生が選ぶ、就職注目企業ランキング【大学別編】(vol.105)

つまらないエンジニアリングからはじまるワーストシナリオ

ものづくり企業の技術者の仕事とは、すなわちエンジニアリングである。
これが楽しくない状況を放置するとものづくり企業はどうなってしまうか、仮説を置いて論じることとする。

ワーストシナリオの因果ループ

我々が想定している因果関係図を示す。図のように、エンジニアリングがつまらないと仕事のモチベーションが低下し、仕事の品質が低下する。これは業務効率の低下を招き、最終的には新しいことにチャレンジできない組織になってしまう。
これが直接的に、若手の成長環境の減少につながる。そうなると優秀な若手は集まりにくくなり、新しい技術の種も生まれなくなる。経営側からも、成果の出せない部門に研究開発費を投じることはなくなり、技術や製品はどんどんシュリンクしてしまう。
そうすると技術力が低下し、競争力が低下する。結果、企業の収益が下がり、より投資しにくい状況となる。これが日本のものづくり企業で押しなべて発生した場合、ものづくり企業への期待値が低下し、人材が集まらなくなり、製造業の空洞化が進むことになる。
実際に新卒学生のものづくり企業への興味が低下していることからも、危機の片鱗は顕在化していると考えている。
各企業とも、人手不足や離職者増の流れに応じ、対策を講じてはいる。特に昨今エンゲージメント向上の取組が各企業において喧しく進められているところであるが、人事施策だけで果たして十分なのであろうか。
エンゲージメントサーベイで良いスコアを残すことが組織目的化し、現場の空気は何一つ変わっていないという声も、よく聞くところである。
では、このループの始発点である、「エンジニアリングがつまらない」がいかにして生じるのかを論じてみたい。

なぜ、エンジニアリングが楽しくなくなるのか

電通総研には製造業の技術者出身コンサルタントが多数在籍している。彼らにヒアリング調査を実施し、エンジニアリングの楽しさと、それを阻害する要因について整理してみた。

エンジニアリングの楽しさについて、ヒアリングでもっとも声が多く上がっていたのは、技術的な検討を実施する上で得られる達成感、自己実現などの技術的な満足感である。
検討を実施する上での気づきを得たり、自分の考え方を検証したり、製品に盛り込んでいく満足感は、ものづくり技術者ならではのものである。
また、社会に価値を提供する=世の中に求められる仕事をするという声も多々上がっていた。自己の仕事が社会の役に立つことを実感できるということも楽しさのひとつと考えられる。

しかし実際には、次のような事柄が原因でエンジニアリングが楽しくなくなってしまうようである。実例を交えて見ていきたい。

コストダウン偏重の価値創造

古くからある日本のメーカーでは、新価値創造よりも既存ビジネスのコストダウンに重きを置いていることがあげられる。VE、VAは細部に至るまでコストダウンの設計検討を行うことが求められる。
根拠が不明確なコストダウン目標が設定され、技術者として入社したにも関わらず、部品表のコストを日々算出する作業をさせられたり、サプライヤにコスト圧力をかけさせられたり、とにかくコストを下げる努力をすることが求められる。

過剰管理

また、複雑化する設計や不正防止の観点、タイトな日程により、現場視点では過剰に見えるほど厳格な管理が求められるようになった。エビデンスづくりやチェック項目の確認、社内調整に明け暮れ、技術的な検討を考える余裕もなくなってしまったとの声も聞く。ひたすら日々の開発管理を行うのみの毎日が続き、何のために技術者を目指したのか、よくわからなくなってしまう。

余裕と権限のない中間管理職

上記の事象は現場努力だけでは改善しない。
では経営層と現場層をつなぐ管理職層は、どのような状態なのだろうか。
どの会社の管理職も、雑務も含め様々な管理業務で忙しくしている。弊社で支援する一事例では、下記のような声が生じていた。
期間・工数を守ることが至上命題になっており、三遊間にこぼれた仕事は、どの部署も引き取らないという事態が生じていた。
また、新しいことにチャレンジするプロジェクトがある際など、「本当に大丈夫なのか?」に終始し、チャレンジを応援する声は聞こえないとのこと。
品質、工数、期間などの要求・制約を守るために四苦八苦する管理職像が見て取れるが、裏を返すと言いなりで、自分なりの考え方をもって判断をする管理職がいないということだった。
様々な要因が積み重なり、一般社員がやっていたことを係長が、係長がやっていたことを課長が、課長がやるべきことを部長がやるようになってしまっていて、マネジメントに必要な判断が1階層ずつ上がってしまっているような状態ということ。(各階層のもつ権限が1段階小さくなり、自分たちの考えが活かせず誰かのレビューを仰がないといけないような状態になった。)
面白い仕事ができる現場づくりは管理職の仕事でもあるが、それができる状態にないことも明らかになってきている。

将来的にエンジニアリングは楽しくなるのか

予想されるトレンドから、将来的に以下の状態が生じるリスクがあると我々は予想している。
放置しておいても、エンジニアリングが楽しくなるような要素は見当たらず、何か手を打つ必要がある。

技術的な検討を必要としない仕事の割合が増える

地政学的なリスクも不透明化してきており、サプライチェーンマネジメントはより複雑になっていく。
影響は多岐に及ぶが、こと技術者には代替品の検討数の増加という形で響いてくると思われる。
詳細設計はデジタル設計やシミュレーション検証が進み、限りなく自動化に近くなっていく。そうすると技術的な試行錯誤は減り、管理業務が仕事の中心となっていく。

現地現物を見る時間が減る

サイバーフィジカルシステムはさらに製造業に浸透し、バリューチェーン全体を通して、デジタル空間での設計・計画・事前検証を可能にする。インダストリー4.0に代表されるようなスマートファクトリー化も進み、技術者の戦場は現場からデジタル空間にどんどん移行していく。その結果、ものづくりの醍醐味である現物を目の前にした試行錯誤はどんどん減ってしまう。

より窮屈で裁量のないプロセスを強いられる

昨今、データ改ざん防止のためにプロセスルールやシステムを厳格に設定し、不正の発生を抑える取組が各企業で進められている。しかしながら、窮屈で裁量のない仕組みは、技術者を定型作業者に変化させ、創意工夫の余地を奪ってしまう。

改革活動こそ検討が必要

DXを皮切りに製造業各社ではバリューチェーン改革活動が進んでいる。改革コンセプトには「全員参加の改革」で、顧客、社会、従業員みながハッピーになる未来が描かれることも多いように思う。
しかし実際の改革活動では、「コスト削減」「リードタイム短縮」等、組織のKGIが優先され、これまで論じた「エンジニアリングの楽しさ」は議論の俎上にすら上がらないこともある。「現場のうれしさ」を考慮した改革目標や施策設定をする場合も、あくまでそれは改革活動がスムーズに現場に受け入れてもらい浸透させることが主眼であり、改革後に現場が楽しく仕事ができるかまでは、きちんと論じられないことのほうが多い。
このねじれは、「従業員も含めてハッピーになる未来を描きたいが、従業員がどうなればハッピーなのか、施策も含めて具体的に描き切れない」ことを意味している。これは人事的な施策だけでは足りない、技術者ならではのやりがいなども含めて考えなければならない難しさがあるからと推測する。
不確実性の高い社会情勢で、現場の技術者が楽しく活き活きと仕事をしているということは、組織のレジリエンスを考える上でも非常に重要である。
人への投資は効果が表れるのに時間がかかるため、将来困らないためにはなるべく早く決断する必要がある。もしこの文章を読むあなたが改革リーダーであるならば、ぜひ考慮に入れていただきたい。

おわりに

また、電通総研では製造業向けコンサルタントを中心に、
ものづくりの価値向上×ものづくりの楽しさ向上 = 強くて楽しいものづくり企業に!
をコンセプトにした業務改革施策の研究開発を実施中であり、まとまり次第続報する予定である。


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