昨今デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、実験業務の効率化に向けた取り組みが活発化しています。本ブログは、DX関連の改革業務を経験してきたコンサルタント(筆者)の体験談を通じて、「手戻り前提の実験業務からの脱却とデジタル化」に向けたアプローチについて言及してみたいと思います。
実験業務は、製品の品質を保証する上では欠かせない重要な役割を担っています。理論だけでは解明できない問題や課題もあり、そのため、実験を通じて仮説を検証したり、データを収集したりすることが製造業にとっては必要不可欠な業務です。また、実験によって得られた結果は、仮説の正しさや理論の妥当性を判断するための重要な手がかりとなることがあります。そのような重責業務を担う製造業の実験部隊に所属されている管理者や担当者の方に課題ヒアリングをさせていただくと主に以下のような声を耳にします。
上記を要因に、実験部署に所属する方の多くの時間を割いてしまうことから「実験業務効率化」については大きな課題となっており、「手戻り前提の実験業務からの脱却」に向けた取り組みが現場では求められております。
「手戻り前提の実験業務からの脱却」に向けたアプローチでは、以下の3Stepの土台作りが必要だと考えております。
手戻り前提の計画にならないようにするためには、実験で評価すべき項目がヌケモレなくタスクとして洗い出せていて、かつ、実験タスクの前後関係を明確化しておくことが重要です。
具体的には、上図のように要件・機能・要素の関係性を見える化(技術ばらし※)を実施し、機能(物理特性)や要素(部品・設計パラメータ)に紐づく実験項目をヌケモレなく抽出します。そして、その実験項目を日程表上に実験業務タスクとして落とし込み、実験業務タスク間の前後関係性を整理して定義しておく必要があります。さらにそのタスクに対して、計画および実績工数(期間含め)などの進捗、担当者に関する情報を残しておくことで、将来類似の実験業務計画を検討する際の参考情報になり、実験業務における初期計画の精度向上に繋がります。
※技術ばらしとは、製品に具現化しようとしている要求機能と、その実現手段である部品の関係や働きを整理し、技術の成り立ちを明らかにする手法。
過去の実験に関する知見(プロセス、データ)になかなか辿り着けない状態を脱却するためには、とりあえず保管ルールを決めて特定の場所(ローカルのフォルダなど)にデータを残していくというアプローチもありますが、ワンランク上の将来的なデータ利活用を見据えて、実験プロセスと紐づけてデータ管理できる状態にしておくことが重要です。
具体的には、Step1で紹介したプロセス管理の仕組みで定義された実験業務タスクを期間、担当者等の情報と共にデータ管理の仕組みへシステム上で連携させておくことが必要です。これまでは、プロセスとデータが別々で管理されていることがほとんどかと思いますが、システム上で双方の仕組みを連携させておくことで、過去の実験に関する知見(プロセス、データ)に辿り着けない状態、言い換えると、データがどのプロセスに紐づけているかわからないという状態は脱却できるのではないかと考えております。
Step1,2に取り組むだけでも十分な気はしますが、なくても業務は回るけどあれば便利なスマホを活用することで業務刷新(さらなるデジタル化促進)を図ることができるのではないかと考えております。私もそうですが、皆様も会議中、移動中、外出先・出張先などPCを広げて作業ができないシーンにおいても、スマホでメール等の業務対応をしたりするご経験はないでしょうか。
そういったシーンにおいて、少しでも業務を進めることができれば効率化を図れますし、実験業務を遂行される方にとって嬉しさがあるのではないかと思います。そういったニーズに応えるためのアクションとして、ローコード開発プラットフォーム活用が有効です。
実験業務におけるプロセスやデータ管理の仕組みは基本的にはPC利用が主で、スマホなどのマルチデバイスには対応していないケースも時々見受けられます。そこでローコード開発プラットフォームを活用することで、Step1やStep2でご紹介させていただいたような業務を遂行する上で必要な情報をAPIなどで様々なシステムから連携させることにより、PCに限らず、スマホやタブレットなどのマルチデバイス対応を実現させることができ、ほぼコーティングなしでITシステムを構築できるため、比較的短期間でシステム運用の立ち上げを実現することが可能となります。例えば、これまではPC上で実施されていた「自分や組織が保有している実験タスクの一覧を確認する」「各種ドキュメントを閲覧する」といった業務シーンにおいてもスマホで業務を遂行できる状態になります。
今回は私の経験談ベースに、デジタル化も絡めた「手戻り前提の実験業務からの脱却とデジタル化」に向けたアプローチ3点をご紹介させていただきました。下図が直近のご支援事例をベースとした弊社ソリューションを用いた施策の全体像になります。プロセス管理ツールiQUAVIS、検証データプラットフォームi-SPiDM、ローコード開発プラットフォームの組み合わせにより、お客様の現状・課題に合わせた仕組み作りのご提案が可能です。
このような取り組みは多くの製造業のお客様が自社内で取り組まれているかと思いますが、デジタル化(DX)となると関係部署が多く調整も大変、かつ、実業務の傍らの活動となるとなかなか時間を避けず、思うように実行できていないというケースも多くあるかと思います。
ISIDは、製造業の各社様ごとに適した具体的なやり方を定義する支援をし、さらにはそのために必要なシステムを構築し、運用・定着化していくための一連のご支援を提供させていただいております。ぜひ、ご相談ください。
前職では航空機メーカーで民間航空機の設計エンジニアとして、主にCAE(Computer Aided Engineering)を活用した構造強度解析業務や国内外サプライヤー間の技術調整を担当しておりました。本業務の傍らCAEはもちろんのこと、IoTなど各種デジタル技術のポテンシャルに魅了され、当時米国に駐在しておりましたが、「デジタル技術の活用によって日本の製造業を盛り上げたい」というモチベーションが芽生え、日本へ帰国後、IT業界の門を叩きました。そこから7年間、様々なソリューションを担いで西日本エリアのお客様を中心に、製造業の皆様が抱えている課題解決を支援し、現在に至ります。