競争力を高めるため、デジタル技術活用によりものづくりプロセスを革新し、市場のニーズに応じて迅速に新製品を提供する必要性が従来以上に増大しています。ものづくりプロセス革新においては、製品の設計開発と生産技術を軸としたエンジニアリングチェーンと、製品を確実に生産し消費者に届けることを軸としたサプライチェーンの2軸で語られることが多いですが、そのいずれのチェーンもデジタル化の遅れとなっていることが経産省のレポート等でも取り上げられています。
引用:2021年9月経済産業省製造産業局「製造業を巡る動向と今後の課題」
このような状況において、今回は、エンジニアリングチェーンのデジタル化にフォーカスを当て、エンジニアリングDXテーマの1つとして昨今注目されている"MBE(Model Based Enterprise)"という考え方をテーマとします。MBEとは、ものづくり情報が定義された3Dモデル(3DAモデル)を企業全体で流通・活用し、大きな成果を狙うコンセプトです。今回は、その詳細内容に加え、MBE推進のための難所とそれを乗り越えるためのヒントをご紹介します。
MBEとは、3DAモデル(PMI等の情報を付加した3DCADデータ)を企業全体で使い回し、設計指示の正確な伝達やものづくりへのデータのダイレクト活用を推進し、大きな効果獲得を目指すコンセプトです。日本の製造業の多くでは、3DCADの普及により"3Dで考え、3Dで設計を仕上げる"ことが浸透していますが、最終的な正式出図は2D図面であり、下流工程には2D図面で情報が流通されています。このため、設計意図があいまいなまま下流に伝達され、また、設計モデル内の情報が下流工程で再利用される割合も上がりません。
MBEの目指すべき姿は、"3DAで考え、3DAで設計を仕上げ、3DAモデルを流通させる"です。3DモデルにPMI(製品製造情報)等を付加し下流工程に伝達することにより、設計者の設計意図や測定指示を、あいまいさを排除した明確さで行うことができます。
※動画再生時間:約5分間
MBEの効果は以下のような様々なモノづくりプロセスで獲得することができます。
作図工数の削減:3DAモデルのみ及び、3DAモデルから2D図の生成による作図効率の向上
設計指示の正確な理解:3D形状に結び付けた幾何特性(公差等)の指示により、人と機械の両方が認識できるモデルの作成
製品設計検証への活用:様々なCAEへの3D形状及び幾何特性(公差等)の活用
ものづくりへのダイレクト活用:3D形状及び幾何特性(属性含む)を、金型、溶接及び機械加工等の
生産準備(CAMなど)への活用
帳票作成へのダイレクト活用:3D形状及び幾何特性(属性含む)を、作業標準やサービスマニュアル等の帳票の作成に活用
近時のDX推進活動活発化のトレンドにおいて、MBEや3DAが推進活動のコアと位置付けられることが増えてきています。
以下事例の通り、様々な業界のお客様がMBE推進活動を開始しています。
先の事例でご紹介したようにMBE推進活動を開始する企業が増えている一方、取り組みたいが第一歩が踏み出せない、あるいはなかなか推進がうまく行かない企業も多いのが現状です。MBE推進にあたり良く聞かれる難所と、それを乗り越えるためのヒントをお伝えします。
難所①「個人的にMBEの価値は想像ができており推進していきたいが、どこからスタートすれば分からない。」
現状この状態にある企業が一番多いと想定しています。MBEはエンジニアリングチェーン全体に亘るコンセプトであり、様々な部門の方々と活動を進めていく必要があります。DX推進プロジェクト等の組織横断プロジェクトでのテーマとして適切な反面、そのようなプロジェクトが立ち上がっていない企業では、活動開始へのハードルがやや高いことも事実です。
この難所を乗り越える一助として、ISIDは「MBE成熟度分析キャンペーン」を開始しました。本キャンペーンは、Web上でのアンケートに回答することにより、MBEの取組状態と取組可能ポテンシャルをMBE成熟度として見える化し、踏み出すべき第一歩の指針を提示する、ことを目的としています。アンケート内容及びMBE成熟度はMBE先進国である米国で標準化されているものを採用しています。
アンケート内容:「NSE MBE Maturity Index」をベースにしたアンケートに回答頂くことで、ものづくりプロセスの5つのカテゴリにおけるMBEの取り組み/取り組み準備状態を可視化します。
MBE成熟度:上記可視化にあたっては、NIST(米国標準技術研究所)でも採用する標準指標である「MBE成熟度」で表しています。企業のMBE実践度合いをモデルの活用状態により7段階のレベルで定義する指標です。
本キャンペーン参加の価値:本キャンペーン参加により、以下が見える化されるため、MBE活動の第一歩をどこから踏み出せば良いかが明確化されます。
キャンペーン参加検討をご希望の方は、是非こちらに以下記載の上ご連絡下さい!
【件名】 詳細内容説明希望
【宛先】 MBE成熟度分析キャンペーン事務局 E-mail:g-MBEMaturitySurvey@group.dentsusoken.com
【必要事項】 会社名・ご部署名・お名前・メールアドレス・(電話番号)
詳細内容ご説明の場を調整させていただきます。
難所②「MBE推進による将来像や推進効果(ROI)を想定するのが難しい」
全社的なプロジェクトや3DA活用推進活動をスタートできている企業であっても、将来像やROIの算定に苦労されるケースも見受けられます。MBE推進においても、1)現状分析→2)目指すべきMBEレベル(将来像)の検討→3)効果想定→4)現状と将来像のギャップを埋める施策想定とROI算出、といった進め方が理想です。上記1)~4)いずれも、MBE活動先行事例を参考にしながら自社に当てはめ想定・算定していくのが近道となります。
ISIDでは多くのお客様へのMBE推進支援の実績を基に、MBE推進にフォーカスした以下のアセスメントメニューをご用意しています。
1)現状分析:
MBE Maturity indexに準拠した指標に基づいた評価と、現状の業務プロセスと問題点のヒアリングを通じて課題設定を実施します
2)目指すべきMBEレベルの検討:
MBE推進の目的・上位要件も加味して目指すMBEレベルと、それを実現する業務プロセス・ITと施策を定義します
3)MBE効果想定:
目指すMBEレベルにおいて貴社の対象業務プロセスにおける想定効果を、フレームワークを用いて検討します
4)現状と将来像のギャップを埋める施策想定とROI算出
目指す姿を実現するための仕組み構築および実践のロードマップの策定とROI策定を実施します
難所③「寸法公差文化を変革するのが大変」
MBEは3DAモデル活用がそのコアであり、その3DAモデルは幾何公差がコアとなります。従って、MBE活動をどのようなテーマからスタートさせたとしても、幾何公差を取り入れていくことはいずれ必要となります。日本の製造業では圧倒的に寸法公差が採用されており、幾何公差とは何かといった啓蒙活動から始める必要があるケースが大半です。ただし、啓蒙活動だけではなかなか実務定着が進まないことも多いため、適切な幾何公差の3DAモデル作りまでを活動スコープとして、システム活用による実務定着まで支援することが寸法公差文化突破のキーとなると考えています。
ISIDでは、「幾何公差を熟知した」コンサルタントと「CADを熟知した」エンジニアが、以下のような幾何公差啓蒙とシステム(3DAモデル)活用の両面から幾何公差定着のご支援をします。
幾何公差啓蒙
システム(3DAモデル)活用
今回は、エンジニアリングDXの重要テーマとなっている「MBE」につき、その効果・事例と共に、第一歩の難所を乗り越えるためのヒントをご紹介しました。様々な効果を刈り取り、DXを推進していく「攻め」の面、欧州・中国等で進みつつある3DAモデルでの企業間のデータやり取りへの対応という「守り」の面、2つの面でMBE推進はますます重要になっていくことは間違いありません。
MBE推進の進め方に迷われたり、推進スピードがなかなか上がらなかったり等お悩みの際は、是非ISIDにお気軽にご相談下さい。お客様毎のご事情を踏まえた次の一手をご一緒に検討させていただきます。