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製造業に新提案 テストからデータ分析までを自動化するものづくり改革とは


技術革新、法規制、社会課題などで複雑化する設計・製造プロセス

 自動車やバイク、航空機、宇宙機器、空モビリティ、農機、建機、船舶など、多くの製造業が現在、様々な課題や法規制への対応を求められている。

 例えば、技術革新への対応。IoTInternet of Things)によって様々な機器がインターネットにつながり、高度な保守サービスを提供したり、OTAOver The Air)技術による機能の継続的なアップデートが可能になっている。変化する消費者のニーズをとらえながら、AI(人工知能)などの新しい技術を駆使して、これまでにない価値を提供しなければ、厳しい競争を勝ち抜くのは困難だ。

 加えて、新たに設けられた法規制や社会課題への対応も急務だ。化石燃料からの脱却が進む自動車業界に代表されるように、カーボンニュートラルなど持続可能な社会の実現に向けた要請の高まり、および規制は、その代表だろう。また、同様に労働力人口の減少や少子高齢化を一因とする働き方改革にまつわる規制、より高度化する安全規制などにもサプライチェーン全体で取り組む必要がある。

 そして、なにより対応が困難なのが、これらの課題を背景に加速する製品の設計や製造プロセスの高度化と複雑化だ。

 開発サイクルを短期化するためにデジタルツインやシミュレーション技術を導入する。労働力不足を補うためにロボティクスで自動化を図るなど、様々な取り組みが進んでいるが、このように高度化、複雑化した新しい設計・製造プロセスは、従来とは異なる方法で全体最適とマネジメントを行わなければ、大きなミスや手戻りなどの問題を引き起こしかねない。

 では、高度化、複雑化する設計・製造プロセスに、どのように対応すればよいのか。業界では、自動化やデータのトレーサビリティを駆使した新しい方法論に注目が集まっている。以下では、その実現に向けた取り組みを紹介する。

ものづくり改革のために連携する実績豊富な両社のソリューションとは

 製造業界が直面する設計・製造プロセスの高度化、複雑化に対して、新しいソリューションを提供開始したのがMBSEModel-based Systems Engineering)をはじめとするコンサルティングやソリューションを開発・提供している電通総研と世界中の自動車メーカーの開発支援を手掛けるAVLの両社だ。両社のトップおよびキーパーソンに、それぞれの強みと協業の背景を聞いていく。

岩本 浩久氏
株式会社 電通総研 代表取締役社長

岩本 電通総研は、企業をはじめ、官庁・自治体や生活者を含めた「社会」全体と向き合い、「システムインテグレーション」「コンサルティング」「シンクタンク」3つの機能の連携により、課題の提言からテクノロジーによる解決までの循環を生み出し、より良い社会への進化を実装することを事業コンセプトとして掲げ、40年以上にわたる製造業支援の実績を有します。製品企画や開発におけるシミュレーションの実行やデータ管理などを担うPLMProduct Lifecycle Management)の提供や、業務改革コンサルティングなどが代表的な支援内容ですが、最近では、製品・サービスの企画、設計、開発フェーズの変革に取り組むお客様向けにMBSEに関するコンサルティングやソリューション、システムインテグレーションサービスなどを包括的に提供する機会が増えています。

ヘルムート・O・リスト氏
AVL社(AVL List GmbH) 会長 兼 CEO

リスト AVLは、オーストリアに本社を置く企業です。常に革新的な技術を取り入れた新しい開発手法を自動車会社に提供してきました。2200以上の特許を有しており、特にシミュレーションやビジュアライゼーション、デジタライゼーションの領域に強みを持っています。例えば、自動車製品のドライバビリティにかかわる評価は、以前は人の感性に依存していました。一方、私たちは20年前に、AIを使ってこれを定量的に評価する製品「AVL DRIVE」を提供し始めました。またその間に、シミュレーションとテストをシームレスに接続するための基盤となる、AVLの統合オープン開発プラットフォームの基本原則も確立しています。

図1 AVLの統合オープン開発プラットフォーム (IODP)のイメージ

製品開発期間の短縮や省人化をはじめ、開発プロセスで生じる問題の早期検出・究明を包括的に支援する

ー 両社の協業の概要を教えてください。

妹尾 真氏
株式会社 電通総研 常務執行役員 事業統括

妹尾 岩本とリスト氏が紹介したとおり、電通総研はMBSEをベースとしたコンサルティング、ソリューション、システムインテグレーションが強み。一方のAVLは製品開発における自動車エンジニアリングとシミュレーション、テストに関する深い専門知識を持っています。私たちが目指すのは、その連携。具体的には、製品開発に使用されている様々なソフトウエア、そして実験設備といったハードウエアとのシームレスな連携および統合に焦点を置いています。

 当社が提供しているソリューションの1つに「iQUAVIS(アイクアビス)」があります。これは、MBSEに基づく製品開発を支援し、自動車業界を中心に150社以上のお客様への導入実績があります。iQUAVISは、モデルベースによる開発を支援する機能と、各工程を管理するプロジェクトマネジメント機能の両方を備えています。

iQUAVISAVLのテストソリューションを連携させることにより、製品開発におけるテスト計画から準備・実行・データ分析までの自動化を実現することが可能となります。IoTAIといった技術を取り込んだり、環境規制に対応しなければならなかったり、現在の製造業が行わなければならないテストやシミュレーションは、実に多岐にわたります。それらを従来の方法で管理していくのは至難の業。その課題を両社のソリューションを掛け合わせることにより、解決していきたいと考えます。

ウォルフガング・プンティガム氏
AVL社(AVL List GmbH) インテグレート オープン開発プラットフォーム グローバルビジネスユニットマネージャー

プンティガム iQUAVISは、既に他社のソリューションとインテグレーションするための仕組みを備えていました。その仕組みを使ってAVLのソリューションと連携させれば、大きな価値を提供できるはずです。

 シミュレーションとテストの接続は、車両開発を加速するためのシームレスな仮想化および機能テストの基盤となります。AVLは、MIL, SIL, HILから実際のテストベッドや実車でのテストに至るまでのシームレスな接続のために、新しい手法やツールを継続的に開発しています。AVLの統合オープン開発プラットフォームとiQUAVISによる継続的な検証環境を使用することで、プロセス全体にわたって車両開発を加速することができます。

ドイツにある電通総研の海外法人であるTwo Pillars GmbHの担当者との会話を通じて、それを確信し、現在の協業に至っています。

妹尾 両社のソリューション連携は、テストの自動化でテスト業務を効率化するだけでなく、製品開発の上流から下流までのデータのトレーサビリティ確保にもつながり、法規制対応やデータ再利用などにも貢献することができます。また、プロジェクトに関係する全員が、複雑なシステム、相互関係、および要件の概要を共有することも可能。これらによって、製品開発期間の短縮、省人化、開発過程での問題の早期検出・究明などが期待できます。

図2 iQUAVISとAVLテストソリューションの連携イメージ
iQUAVISのプロジェクト管理機能を、テストプロセスを支援するAVLソリューションとシームレスに連携することで、テストの計画から準備、実行、さらには結果の分析、管理まで自動化を実現

― 反響はいかがでしょうか。

妹尾 既存業務の効率化などに有効だと自動車業界のお客様を中心に多くの期待の声をいただいています。実際、既に数社から導入に向けたご相談をいただいています。

日本のものづくり力のさらなる強化と成長に貢献していきたい

― 最後に今後の展望についてお聞かせください。

リスト 現在の自動車業界における、変化のスピードは凄まじいものがあります。5年前には60カ月かかっていた車両開発が、今日では2030カ月で行われています。これは、高度な仮想化、デジタル化、および自動化によってのみ可能となります。また、人工知能も重要な要素となり、エンジニアやサイエンティストの創造性と知性を拡張していくと考えています。

 AVLは、単にソフトウエアなどのソリューションを提供するのみならず、製品開発にかかわるメソドロジーを製造業のお客様に提供していくことをビジネスのコンセプトとしています。電通総研が提供するものづくりのためのインフラソリューションにおいて、弊社のメソドロジーを実装したツールをシームレスに活用いただくことで、開発プロセスの自動化、スピード化に向けた多大な貢献を果たしていけるものと考えています。

岩本 電通総研は、202411日、電通国際情報サービス(ISID)から社名を変更し、目指すべき姿として「システムインテグレーション」「コンサルティング」「シンクタンク」の3つの機能を連携させ、社会課題の解決に貢献する企業になることを掲げています。AVLとの連携ソリューションの提供を通じて、日本の基幹産業である製造業界が直面する技術革新、環境問題、労働力不足などの様々な課題解決に貢献していきたいと考えています。